2023年の国勢調査によると、パキスタンの人口の3.6%がマイノリティコミュニティに属している。そのうち、44%がヒンドゥー教徒、38%がキリスト教徒、15%が指定カースト(SC)、3%がその他宗教とされている。ダリットの権利の研究者や活動家は、この国勢調査の結果に異議を唱えている。さまざまな調査によって、ヒンドゥー教徒の90%が指定カースト/ダリットであることが明らかにされてきた。ダリットの90%は農村部に住み、10%は都市部に住んでいる。ダリットの多くが一握りの土地さえ持っていないため、不衛生な場所に立つその場しのぎの小屋に住むか、住すみか処を求めて転々としている。
パキスタンでは、これらのコミュニティは指定カーストという名で知られている。カースト、宗教的アイデンティティ、居住地域の環境そして貧困により、ダリットは最も脆弱で不利な立場に置かれたコミュニティであり、制度的抑圧や差別のもと基本的人権を否定されてきた。ダリット女性は伝統的で家父長的な社会において、「女性」ゆえにさらなる差別に直面する。しかし近年、国民として登録され、国勢調査の対象になり、セーフティネットの社会的給付を受けるなど、ダリットの福祉のために政府は積極的な措置をとっている。
カーストという階層的な社会構造のもと、ダリットのなかでも特に底辺に置かれた人びとは、清掃などの低賃金労働を強いられている。彼・彼女たちは最も貧しく、住む場所に困っている声なき人びとである。手作業による糞尿処理、道路の清掃、廃品回収などの仕事に就く。側溝やマンホールの清掃はダリットに割り当てられており、その中にはキリスト教徒も含まれている。ダリットは生命を脅かされる状況下で働く一方、日常的に憎悪、侮辱、無視を受けている。
児童労働・債務労働
世界奴隷指標によると、パキスタンでは230万人が奴隷のような状態で暮らしている。同指標は債務労働者のうち80 ~ 90%が指定カーストであると示唆している。債務労働の仕組みは、貧しい労働者が賃金を前借りし、借金を完済するまで家族ぐるみで雇用主のために働くというものだ。そのような家族は最も深刻な差別や暴力を受けやすい。農業やレンガ工場をはじめ、絨毯織り、手工芸、ガラス細工、家事労働などに従事している。
2021年のUNICEFレポートによると、パキスタンにおいて、5歳から15歳の子どもの44%が学校に通っていない。また、2022年の政府レポートによれば、就学年齢であるにもかかわらず、2620万人の子どもたちが学校に通っていない。18歳以下の数百万の子どもたちが農業やレンガ工場、自動車工場、絨毯織り、ホテル、レストラン、採掘、廃品回収などさまざまな場所で働いている。これらの子どもたちは、物乞いや売春を強いられる危険にさらされている。強制的な幼児婚も債務労働の家族には頻繁にみられ、パキスタンの多くの地域で社会的に容認されている習慣である。
いくつかの国際調査により、児童労働や債務労働の多くが、ダリットのヒンドゥー教徒やキリスト教徒など、マイノリティ出身であることが明らかにされた。例えば、米国労働省の報告書(2021年)によれば、パキスタンでは、マイノリティ集団とカーストが児童労働の誘因となっている。「キリスト教徒やダリットなどのマイノリティ集団は、教育を受けることができず、土地や財産がない。彼らは周辺地域、警察、裁判所から差別を受けやすい」としている。
貧困は搾取の主な理由の一つと考えられている。さらに、カーストは、階級、宗教、地理的位置と交差して、彼・彼女らを最も賃金の低い仕事に押しとどめ、貧困と差別の悪循環に陥らせている。パキスタン政府は、搾取、差別、虐待をなくすためにさまざまな法律を制定してきた。これら問題に対処するためには、政府関係者に一層の力とスキルが求められる。パキスタンはまた、強制労働に関するILO第29号および第105号条約、子どもの権利条約(1989年)の署名国である。
これらの事実は、カーストが児童労働と債務労働の根本原因の一つであることを物語っている。カーストはジェンダー、地理的位置、貧困などの問題と交差し、ダリットが児童労働や債務労働などに巻き込まれやすい状況に追いやっている。国連はカースト問題を優先すべき人権問題として取り組むべきである。カーストを、児童労働や債務労働をなくすための国連アジェンダの中心に据えるべきである。
IMADR通信220号 2024年11月22日発行