学校現場から差別をなくす

IMADR通信219号 2024/8/8発行

 

インド南部のタミル・ナドゥ州にある「青年の社会意識協会(SASY)」は、IMADRと同じく国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)に参加しています。SASYのラメッシュ・ナサーンより、同州における画期的な動きについての知らせがありました。

 

差別ゼロ・ゾーンを目ざして

タミル・ナドゥ州政府は2023年8月、州内における学生間のカーストやコミュニティ感情に基づく暴力を避け、調和を図り、ガイドラインを提案するための一人委員会を設置した。タミル・ナドゥ州では、ダリットや部族出身の学生が他カーストの学生に襲われる事件が頻繁に起きていた。そんななか、ティルネルヴェリ県ナグネリで、学業優秀なダリットの学生2人が、支配カーストの学生グループに襲撃され、残忍な扱いを受けた事件がきっかけとなり、委員会の設置が州議会で決議された。2024年6月18日、退官判事のチャンドゥル氏からなる一人委員会は、その報告書をスターリン州首相に提出した。教育者、学生、社会活動家、ジャーナリストなどから多様な意見を集めて作成されたこの報告書には、州政府への勧告が多数含まれている。その一部を紹介する。

 

* 学校名から「カラル再生学校」や「アディ・ドラヴィダ福祉学校」など、被差別カーストを示す名称を削除し、シンプルに地名をつけた公立学校名に変えるよう行政命令をだすこと。
* 学校への寄付者あるいはその家族の名前を学校名から削除する行政命令をだすこと。(注:家族名だけで支配カーストであることが分かる)
* (支配)カーストの名のついた私立学校には、それを削除するよう要請すること。応じない場合は、法的措置を検討すること。
* 州立学校の教職員の行動綱領を策定し、実施すること。
* 年度始めに、すべての学校の教職員を対象とした、社会問題、カースト差別、性暴力、ハラスメント、薬物、指定カースト/指定部族に対する犯罪などに関する法律の研修受講を義務化すること。
* 州政府は、学識経験者と社会活動家で構成される社会正義監視委員会を任命し、学校のカリキュラムに社会正義、平等、反カースト差別などの課題が含まれているかをモニターし、適切な修正を期限付きで提案するよう委員会に命じること。
* すべての学校のすべての教室における席順を、障害がある生徒を除き、アルファベット順に行うようにする。(注:一部学校では、ダリットの生徒が教室の一番後ろに、時には机・椅子なしで座らされる慣行が続いている)
* 生徒の出席簿には、所属カーストを記すような欄や詳細の記述は一切含まないこと。
* いついかなる時も、教員は、直接的であれ間接的であれ、生徒の所属カーストが分かるような呼称で呼ばないこと。あるいは、生徒の所属カーストを侮蔑するような発言を行わないこと。
* 当局からの奨学金の通知を他の学生がいる前で伝えないこと。そうした通知が届いた場合は、教頭室に生徒を呼んで行うこと。(留保制度に基づく高等教育の入学枠や奨学金を受けていることが分かれば、その学生の所属カーストや出身の噂はたちまち学内で広がる。暴露された大学生が自殺に追い込まれる事件が何度も起きてきた)
* 州政府は、社会悪と闘うために、すべてのコミュニティの学生で構成されるタミル・ナドゥ社会正義学生隊を各村に結成すること。その際には、マイノリティ・グループ、女性、指定カースト、指定部族の学生たちも確実に含まれるように配慮すること。

 

この報告書は、次の州議会で審議される。現在、州議会の与党であるDMK(ドラヴィダ進歩同盟)はインド南部で大きな力をもつ地域政党である。6月の総選挙では、タミル・ナドゥ州の39議席中、22議席を獲得し、与党BJPに一議席たりとも許さなかった。政治における民主的権利の保護、非支配社会の確立、地方分権と自治などを目ざしている。