移民労働と技能実習制度の問題

IMADR通信219号 2024/8/8発行

尾家 康介
弁護士、IMADRフェロー

 

国連ビジネスと人権作業部会の報告書(以下「本報告書」という)は、「労働の権利」の項目の大半を移民労働者と技能実習制度に割いている。

技能実習制度と強制労働

まず、技能実習生や支援者、実習生の受入先(実習実施機関)、その元請企業などから聞き取りを行った結果として、技能実習制度の構造的問題点から生じる、技能実習生その他の外国人労働者が職場での暴力、劣悪な住環境、銀行口座開設の困難、本国での多額の渡航前費用の支払い、日本人との賃金格差などの存在を指摘している。また、実習先の7割で労働基準法令違反があるという統計を紹介するとともに、パスポートの取上げなどで、労働者の意思に反する強制的な労働が疑われる事案があることに留意をしている。
その一方で、個々の受入先や支援者による労働者の権利啓発・権利擁護の取組みや、サプライチェーンの元請企業が技能実習生の渡航前費用を負担する取組みなどを評価し、また、法務局人権相談の複数言語対応や外国人技能実習機構による相談対応・実地検査について一定の評価をしている(こうした対応は実際には表面的で実効性がないという声も同時に取り上げている)。
そして、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の最終報告書の内容を取り上げつつ、「技能実習制度の各分野で顕著な人権課題に対して分化した分析評価を行うことが引き続き重要である」とし、「日本政府は人権の普遍的な享受を確保するための制度を作るために今こそ踏み出す必要がある。作業部会はこの点に関するOHCHRのガイダンスを強調する」としている。
また、移民労働者も含めた人権救済の共通の問題として、国内人権機関の不在を挙げている。
「結論及び提言」として、「技能実習制度の見直しにおいて、採用のために支払う費用の廃止、実習生の雇用主に対して人権のトレーニングを義務化すること、採用プロセスの単純化、転職を容易にすること、安全な労働環境とまともな生活を確保すること、日本語教育と職業訓練の機会を確保すること、日本法の下において同一価値労働に対する同一賃金を確保することなど、国際人権基準に則った明示の人権保障を組み込むこと」をあげたほか、強制労働や人身取引の被害者認定を強化、移民労働者条約などのILO条約の批准、国内人権機関をすぐに設置することなどを求めている。

 

本報告書の意義

技能実習制度の構造的問題点については、2010年や2011年に国連の特別報告者の報告でも指摘があり、複数回の大幅な制度「改正」を経てもなお、問題に変化がないことが確認された。
現行の技能実習制度や新たな「育成就労」の制度設計において、作業部会が議論に含めるべきと注文をつけた点が十分に反映されているとは言い難い。上述のOHCHRのガイダンスでも、転職の制限が問題視され、また、技能実習制度では著しく制限されている家族の統合も当然の権利とされている。
日本の移民労働者の受入れに関する制度設計の議論において、受入れを促進したい国家や労働者を雇用する側のニーズは、人権保障と対立するかのよう取り扱われることがある。しかしながら、「ビジネスと人権」の枠組みが求めるのは、企業活動において、国家が人権を保障する義務を負い企業が人権を尊重する責任を負うことで、「ビジネス」と「人権」を切り離して対峙させること自体が誤りである。今後の移民労働者の受入れの中で、本報告書で改めて指摘された事項を反映する姿勢がなければ、国家もビジネスも共倒れになりかねない。