ネット社会における部落差別

IMADR通信219号 2024/8/8発行

髙橋 定
部落解放同盟大阪府連合会書記長

 

削除申請に期待の一歩

インターネット上の部落差別や人権侵害・誹謗中傷に対処するため、国は「プロバイダ責任制限法」を改正すべく国会に上程し、「情報流通プラットフォーム対処法」が2024年5月に可決・成立した(1年以内に施行)。この法律の成果としては、プラットフォーム事業者に対して、人権侵害・誹謗中傷について、削除申請の窓口や手続きを整備すること(日本語で対応)、運用体制の整備について文化・社会的背景に明るい人材を配置すること(日本の部落問題や人権問題を理解している)、ユーザーからの人権侵害・誹謗中傷に対する削除申請があれば、処理の通知を1週間以内に行うこと、大手プラットフォーム事業者毎に、削除指針の作成・公表が義務付けられたことが挙げられる。削除指針の中に被差別部落の所在地情報等が入れば、「部落探訪」等の削除が期待される。また、違反した場合には総務大臣が是正勧告や命令を行い、命令に従わなければ1億円以下の罰金等罰則を科すことができる。
課題としては、法律の対象が、大手のプラットフォーム事業者のみであり、残る約2割の中小事業者に対する働きかけが必要であること、部落問題・人権問題を理解した人材の配置が不透明であること、削除指針が事業者毎にばらつく可能性もあり、国が一定のガイドラインを示すべきことが挙げられる。

 

SNS(裏アカ)調査問題

2024年5月、部落解放同盟と厚生労働省(雇用対策)との交渉で、SNS(裏アカ)調査問題について以下のことが明らかになった。
SNS調査問題に対する厚生労働省の基本見解として、募集や選考時に個人情報を収集する場合は、職業安定法第5条の5を踏まえた対応が必要であり、業務の目的の達成、当該目的の範囲内でこれを保管し、使用しなければならないとされている。国の指針では、社会的差別につながるおそれのある事項、思想・信条等の個人情報を収集してはならないと規定しており、「就職差別につながるおそれがある14事項」の周知啓発を行っている。
SNS調査に関しては、本人に責任のない事項、本来自由であるべき事項の把握につながる可能性があることから、たとえSNS等を利用した公知の事実の収集であっても、14事項を遵守する必要がある。
厚生労働省は、業務の目的から逸脱した個人情報の収集を行ったことを確認できた場合、また業務で知りえた個人情報を第三者に提供したことを確認できた場合には、SNS調査を依頼した事業者に啓発指導を行うとの見解を示した。
具体的な対策として、大学生等を対象とした「公正な採用選考に係るアンケート」を実施中で、①不適切な応募用紙やエントリーシート、書類等の提出の有無②面接時の不適切な質問の有無、③SNS・身元調査の実態を来年4月に就職予定の学生を対象に今年度末までに実施し、調査結果を関係省庁、関係機関に周知する予定である。
また、事業所を対象に「SNS調査に係るアンケート」を2023年9月~10月に実施し、無作為抽出で1250事業所から回答があり、その結果、①採用選考時にSNS調査を実施した事業所は全体の4%で、そのうち2割が外部業者に委託、残り8割が自社で実施と回答、②SNS調査を実施するにあたり、本人同意を得た事業所は約3割、得ていない事業所は約7割という結果であることを明らかにした。調査により、「犯罪歴」「交友関係(暴力団関係)」「攻撃的な投稿歴」「問題行動を起こしていないか」などに関する回答が得られたとしている。
今後は、大学生等のアンケート調査結果をもとに、SNS調査の実態を解明し、就職差別を防止するシステムを構築していく必要がある。