日本の人権これでよいの? 国連審査から見る

IMADR通信219号 2024/8/8発行

 

2018年8月、人種差別撤廃委員会(CERD。以下、委員会)の日本政府報告書審査が行われ、差別禁止法の制定、国内人権機関の設置、ヘイトスピーチへの対応強化を含む27項目の勧告が出された。そこには、次回審査に向けた政府の定期報告書を2023年1月14日までに提出するという勧告も含まれていた。
しかし、期日を過ぎても政府報告書は提出されなかった。翌2024年になっても提出はなかった。未提出の問題は、政府の勧告に対する姿勢と関係している。政府が勧告に沿って、具体的な措置の検討に入ったと思えるものは、少なくとも私たちNGOから見て、ほとんどない。IMADRはERDネットとともに2022年6月7日に政府関係省庁と意見交換会をもち、個々の勧告の実施状況についてさまざまに質問をした。残念ながら、政府の回答は、政府が行っている措置の説明ばかりであった。
2024年6月6日、参議院外交防衛委員会で福山哲郎参議院議員が委員会への報告書未提出の問題をとりあげた。福山議員と外務省との事前準備のやりとりで分かったことは、政府は、2024年4月に審査方法を簡易方式に変えるという口上書を国連に提出していたことだ。言い換えれば、定期報告書を作成して出すのではなく、委員会からの質問リストを受けて、その回答を政府報告書に代えるという方式にしたのである。外交防衛委員会で答弁にあたった外務省官僚は、「委員会に簡易方式に切り替える旨を伝達した。今は、委員会からの質問リストを待っている」と答えた。
福山議員は、「昨年1月にすでに提出期限が切れていた。その間、ほったらかしにしておき、今年4月になってから、『簡易方式に切り替えます、そちらの質問リストを待ちます』というのはあまりに不誠実ではないのか?」「報告書の準備を進めていたのだから、それを仕上げて出せばよいのでは」と、外務省に詰めよった。簡易方式にすれば、次回の日本審査はさらに4年先の2028年頃になりそうだ。

 

提出が滞っているのはCERDだけではない
現在、日本は国連人権理事国の5期目を務めている。そして、主要な国連人権条約(人種差別撤廃条約、自由権規約、社会権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約とその選択議定書、拷問禁止条約、障害者権利条約)の締約国である。政府はこれら条約の監視機関である条約委員会に定期報告書を出し、審査を受けてきた。2018年のCERD審査の後も、2022年8月の障害者権利委員会、10月の自由権規約委員会による審査があった。今年10月には女性差別撤廃委員会の日本審査が予定されている。
OHCHRのウェブサイトには条約機関(Treaty Bodies)と題するホームページがある。そのHPには、すべての人権条約機関へのすべての締約国の報告書提出期日を年毎にまとめたリストがある。また、報告書提出期日を過ぎたすべての締約国のリストも公開されている。驚くことに、人権理事国5期目を務める日本は、CERD以外に、社会権規約委員会そして拷問禁止委員会に対する報告書の提出を、5年、6年間滞ったままである。条約機関のHPに公表されている2023年12月末現在のリストを見れば:

遅滞なしの国:54カ国(アジア太平洋は8カ国)
1つの委員会への提出遅滞:39カ国、2つの委員会:43カ国、3つの委員会:34カ国(日本、他)、4つの委員会:5カ国、5つの委員会:1カ国、6つの委員会:2カ国、7つの委員会:1カ国。

注①:国によって異なるが、多くの国は8~10の条約に加盟している。
注②:日本の社会権規約委員会への提出期限は2018年5月31日、拷問禁止委員会へは2017年5月31日である。

報告書提出は条約加盟国の義務である。国連加盟193カ国のうち、54カ国は提出に遅延はない。国連の再三の勧告にかかわらず、未だ、国内人権機関は設置されていない(設置国:111/未設置:82)、個人通報制度の採用も皆無である。報告書遅延の背景にはこうした現実もある。日本の人権、これでよいの?

 

(IMADR事務局)