国連ビジネスと人権作業部会 日本訪問報告<部分訳・抄訳>

IMADR通信219号 2024/8/8発行

 

Ⅰ.背景

B.人権を尊重する企業の責任
13.指導原則を理解し実施する上で、企業間に大きなギャップが存在する。特に顕著なのは、指導原則を高度に理解している大企業、特に多国籍企業と、日本の企業総数の99.7%を占め、全雇用の70%を創出している中小企業(2018年調査)との間のギャップである。
14.多様な製品、サービスを扱う総合商社や小売業に指導原則をさらに浸透させる努力が必要である。

C.救済へのアクセス
1.国家による司法メカニズム
17.提訴を困難にしている障壁を含め、司法へのアクセスと効果的な救済に関する顕著な問題がある。重大な問題の一つは、ビジネスと人権の指導原則や広範な人権問題に関する裁判官の意識が低いことである。また、ステークホルダーの証言にあるように、長引く裁判手続が救済へのアクセスを妨げている。
2.国家による非司法的苦情処理メカニズム
19.人権侵害の事例を調査する法務省人権擁護局と、労働者の苦情を受理する厚生労働省労働局の重要な役割を認識する一方で、作業部会は、日本に国内人権機関が存在しないことに深い懸念を抱いている。多くのステークホルダーは、このメカニズムがないため、企業における人権尊重促進のための政府の取り組みと、企業の説明責任を執行させる政府の取り組みの間に大きなギャップが生じていると指摘した。
20.法務省人権擁護局は人権侵害の申し立てを調査することができるが、この機能は国内人権機関の役割を果たすものではない。国内人権機関はビジネスに関連した人権侵害の矯正を強化し、人権問題に関する省庁間の調整を促進し、民間部門の関係者、監査、裁判官、公選弁護人に対するビジネスと人権に関する研修を推進する上で極めて重要である。
21.国内人権機関の不在は、特に危険にさらされている人びとの司法と救済へのアクセスを妨げ、国際人権基準に基づいた救済を求めることに障壁を生む可能性がある。また、日本の国際的イメージにも悪影響を及ぼす。政府の国内行動計画が、国際社会においてビジネスと人権のアジェンダを推進することに重点を置いていることを考えれば、国内人権機関の設立はこの目的に向けた重要な一歩となろう。
22.日本は、2000年に「OECD責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」に基づき、ビジネスと人権に関する紛争を処理し、責任ある企業行動の促進を任務とするナショナル・コンタクト・ポイントを設置した。しかし、知名度と影響力の欠如により、設立から23年間で処理したのは15件に過ぎない。このため、ナショナル・コンタクト・ポイントがすべてのステークホルダーから独立した信頼できる機関であるとみなされる必要がある。
3.非国家ベースの苦情処理メカニズム
24.日本においてビジネス関連の人権問題に対処するために、非国家ベースの効果的な苦情処理メカニズムが重要であると強調する。経済産業省と外務省の2021年調査によると、回答企業760社のうち、被害者に救済を提供し、問題を是正するための指針や手続を持っていたのは49%にすぎなかった。面談した大企業のほとんどは、業務レベルの苦情処理メカニズムを設けていたが、一部の従業員は、職場の不正行為の報告による報復を恐れていた。

 

Ⅱ.リスクにあるグループ

D.マイノリティグループと先住民族:
40.2019年の「アイヌ施策推進法」の成立は、アイヌ民族の権利を認める前向きな動きである。しかし、アイヌ民族は教育や職場をはじめ、様々な領域でいまも差別に直面している。
43.印刷物やインターネット上で、アイヌ民族に対する敵対的で歪曲されたコメントが急増している。国立アイヌ民族博物館・民族共生公園でアイヌの労働者が直面している人種的嫌がらせや心理的ストレスに関する報告に懸念する。
44.韓国人・中国人労働者に対する使用者による度重なるヘイトスピーチを含む差別を懸念する。ヘイトスピーチ関連で被害者が提訴した裁判のなかには、裁判に何年もかかったものもあり、勝訴した場合でも、金銭的な補償はなかったケースがある。
45.部落民は日常生活においていまだに差別を受けている。このような差別は、労働市場にアクセスし、均等な雇用機会を享有する能力に深刻な影響を及ぼしている。2016年に「部落差別解消推進法」が成立したが、特にネット上や出版における系統的なヘイトスピーチや、職場差別(面接試験での侵襲的な質問など)があることに注目する。
48.差別を禁止する適切な規制や法律がないため、差別の被害者による提訴や救済が極めて困難となっている。先住民族、在日朝鮮人、中国人、部落民に対する差別は、日本が加入している「人種差別撤廃条約」の適用範囲に含まれる。ソーシャル・メディアやテクノロジー企業が、プラットフォーム全体を通して人権尊重を促進し、被害発生を防止するために果たすべき役割を再確認する。

E.子ども:労働基準法は18歳未満の労働に関する特別な保護規定を定めているが、法的枠組みでは児童労働の定義はなく、政府は、児童労働撲滅に関する行動計画を策定していない。社会全体において子どもの権利に対する意識が低く、ビジネス活動が子どもの権利に及ぼす影響に対して無関心である。

F.高齢者:高齢の従業員に対する差別的雇用慣行が蔓延っている。労働中の負傷や死亡事故の約4分の1は60歳以上の労働者と報告されている。

 

Ⅲ.問題となる領域

A.健康、気候変動、自然環境:福島第一原発、PFAS汚染

B.労働者の権利:労働組合、過重労働、移民労働者と技能実習制度

C.メディアとエンターテインメント業界:アニメ業界におけるフリーランサーの低賃金と搾取的環境。メディア、エンタメ業界に広がる不処罰の風土。性暴力とハラスメントの悪化。旧ジャニーズでの長年の性的虐待とメディア業界によるスキャンダルの隠蔽、被害者の救済と補償の遅れ。

 

Ⅳ.結論と勧告

84.リスクにあるグループに対する不平等と差別の構造を完全に解体することが急務である。
85.g) ii) 効果的な救済へのアクセスと企業の説明責任をさらに促進するために、パリ原則に沿って、独立した国内人権機関を遅滞なく設立し、人権侵害に対処するための明確なマンデートとリソースをもたせるべきである。
(j) 現行の差別解消法を改正し、その包括性と実効性を高めるとともに、明確かつ包括的な差別の定義を盛り込み、差別を禁止して制裁する。国際基準に沿って、企業の採用面接における差別につながりうる質問を禁止する。
(o) ヘイトスピーチ解消法の適用範囲を、出身や在留資格にかかわらず、そして職場におけるヘイトスピーチや雇用機会に影響を及ぼしうるヘイトスピーチも含むよう拡大する。
(p) 政府機関と民間部門が、国連先住民族権利宣言などの国際基準に従い、先住民族の自由で事前の、十分な情報に基づく同意の権利を守るようにする。
(q) 部落差別に関する調査を実施し、アイヌ民族の現状に関する包括的な調査を定期的に実施し、関連するプログラムや政策に適宜適応させる。

 

(翻訳・報告 IMADR事務局)