映画の紹介 インド映画にみる進みゆく静かな変化

ジュディスおすすめのインド社会におけるカースト制度に関する映画を5 つ紹介する。(12 ページの「交差性とフェミニズム」記事ご参照)

 

『Jai Bhim(※1)』
監督:T.J. 二ャナヴェル
2021年/ 164分/ インド
「法は闘うための武器である」。弁護士の主人公が度々口にする台詞だ。本作のタイトルはダリットのリーダーB . R . アンベードカル(※2)の信奉者 Babu Hardas LN が使い始めた社会運動のスローガンであると言われている。本作は1993 年にK.Chundru 判事が争った訴訟事件を題材にしており、イルラー出身のラージャカンヌとそのパートナーを中心に物語が展開する。ある日強盗の濡れ衣をきさせられたラージャカンヌは監禁され、犯してもいない罪を自白するよう拷問される。彼を助けるために立ち上がった弁護士の前には社会システムという大きな壁が立ちはだかる。社会的に疎外されているコミュニティに対する警察の乱暴で差別的な扱いに疑問を投じた作品である。

 

『Maamannan』
監督:マーリ・セルヴァラージ
2023年/ 155分/ インド
本作のタイトルは「皇帝」を意味する。ダリット出身の与党立法議会議員マーマンナンが、息子アティヴェランとともに暴力的な権力闘争に巻き込まれていく。マーマンナンの政治キャリアの始まりは特定のカースト出身者しか選出されない「留保」村のカテゴリーに当てはまり、地方議員として選出されたことだった。本作は政治や社会に蔓延するカースト主義だけでなく留保や政治システムのあり方に関しても触れ、権力に伴う地位と責任を強調している。

 

『Sairat』
監督:ナグラージ・マンジュレ
2016年/ 174分/ インド
「ワイルド」を意味するタイトルの本作は、今回紹介する作品の中で唯一のラブストーリーである。有力政治家の娘である上位カースト出身のアールチーが、漁師の息子である下位カースト出身の同級生パルシャーと恋に落ちる。しかし、周りから反対されカースト主義の厳しい慣習のため苦境に立たされる。描かれているのは男女の恋愛だけではない。本作の監督はマハーラーシュトラ州の下位カーストの家庭で生まれ育った。カーストが支配する社会構造とそれに影響を受ける若者の人生、学校生活、日常での抑圧などが歴史的に抑圧されてきた人々の視点で描かれている。製作から8年経った今日でも必要な視点ではないか。

 

『Asuran』
監督:ヴェトリマーラン
2019年/ 140分/ インド
本作の主人公は下位カースト出身の小作農。ある日、彼の長男が上位カーストの地主に恥をかかせ、その報復として地主はその長男を他の人に殺すよう命じた。主人公の別の息子がその復讐のために地主を殺害。地主の親族が息子の血を求めてうごめく中、主人公は息子を守るために家族とともに逃亡する。ジュディスもインタビューの中で度々不寛容さとカーストプライドの高さに問題提起をしていた。本作のタイトルは「悪魔」を意味する。果たして誰/何が悪魔なのか、そして敵意に終止符を打つことはできたのだろうか?

 

『Article 15』
監督:アヌバウ・シンハー
2019/ 140分/ インド
ウッタル・プラデーシュ州の農村を舞台にした本作は、2014年のレイプ事件(バダユーン事件)など複数の実在するカースト差別に起因する犯罪事件を基にしている。被害者が下位カースト出身であるがゆえに事件をもみ消す警察官たちに対し、ある警察官が立ち上がる。タイトル「Article 15(インド憲法第15条)」は宗教・人種・カースト・性別・出身地に基づく差別を禁止している。それだけではない。先述のB.R.アンベードカルは「インド憲法の父」としても有名であり建国時に発布された憲法起草に寄与した。第15条は初めて「不可触・不浄」と蔑まれてきた人びとの尊厳を認め、権利を保障した点でも重要な意味を持つ。同時に、これは権力者によって違反され無視されてきた条項である。「私たちは彼らには見えない」。ある人のこの言葉が頭から離れない。

 

※1 Jai Bhim は、インド仏教徒の間での挨拶としても使われている。
※2 自らもダリットであった アンベドーガルはカースト制度廃止を強く唱え、闘いの先頭に立ちました。今日でもダリットの指導者として敬慕されています。