自由権規約 インドネシア審査と 国内人権機関の参加

白根 大輔
IMADR国際プログラム上級アドバイザー

 

自由権規約委員会140会期
スイス・ジュネーブで、国連自由権規約委員会(以下、委員会)の第140会期が2024年3月4日から28日まで開催された。この会期では7つの締約国(チリ、ギアナ、インドネシア、ナミビア、セルビア、ソマリア、英国)の定期審査が行われ、将来の審査の準備として2つの締約国(モンゴル、ベトナム)に対する質問リスト(通常の審査手続きで、政府が報告書を提出した後に作成される優先事項リスト)および4つの締約国(アンドラ、アゼルバイジャン、ジブティ、マリ)に対する政府報告前質問リスト(簡易審査手続きで、政府が報告書を提出する前に採択される優先事項質問リスト。このリストへの政府の回答が政府報告書とみなされる)が採択された。さらに4つの締約国(フィンランド、パラグアイ、チュニジア、ウズベキスタン)のフォローアップ審査が行われた。

 

国内人権機関参加
140会期で定期審査が行われた7つの締約国のうち、チリ、インドネシア、ナミビア(ナミビアのみ質問リスト採択時)、英国の審査には、それぞれの国の国内人権機関が参加した。国内人権機関には、自由権規約委員会を含む国連条約機関や国連人権理事会の諸手続きにおいて、特別な参加枠が用意されている。自由権規約委員会の審査プロセスでは、質問リストまたは政府報告書前質問リスト採択や審査のときに、市民社会やその他関係機関とは別枠で書面による報告書を提出することができる。その上、審査前には国内人権機関だけにブリーフィングの枠が特別に用意されている。特に国内人権機関世界連合(Global Alliance of National Human RightsInstitutions、通称GANHRI)からA認定を受けている機関による参加は、委員会にとって政府報告や市民社会報告とはまた別の、重要な情報源として歓迎されている。

 

第2回インドネシア審査と国内人権機関の役割
質問リスト採択および審査前の報告書提出に加え、2024年3月11、12日に行われた第2回インドネシア審査には、インドネシア国内人権機関(KomnasHAM)および女性に対する暴力に関する国内機関(Komnas Perempuan)から代表者がジュネーブを訪れ、ブリーフィングと審査に参加をした。ちなみにKomnas HAMは第1回審査にも参加しており、Komnas Perempuanは第1回審査フォローアップに際し、関連する勧告履行について委員会に報告書を提出している。市民社会からも多くの報告書が提出され、30人近い代表者がジュネーブを訪れ、別途ブリーフィングを行った。

このような活発な国内人権機関および市民社会参加のもと、第2回審査を通し、委員会からは過去の人権侵害に関する責任追及、死刑、司法の独立、ジェンダー平等、女性に対する暴力、様々な差別の存在と包括的反差別法の不在、拷問、表現や集会の自由、信教の自由、中絶の制限、子どもの権利、マイノリティおよび先住民族の人権、刑務所や難民キャンプ等の劣悪な状況、さらにテロ対策や汚職に至るまで、様々な問題が委員会から指摘され、勧告が出されている。また国内人権機関について、委員会は、2022年、Komnas HAMがGANHRIから再びA認定を受けたこと、および人権法廷に関する国内法のもと、重大な人権侵害についての調査権限を与えられていることなどを歓迎する一方、これら機関に対する経済的、技術的、人的資源提供や役職者の任命プロセスなど、パリ原則に完全に則った基準のもと、これら機関の権限、機能が効果的に確保するよう勧告もしている。

 

国内人権機関が存在するからすべて良いというわけではないし、インドネシアに人権問題がないというわけではもちろんない。むしろ上記のように第2回審査を通して委員会から指摘されている通り、自由権に関するものだけでも数々の問題がある。しかし、これらの問題解決や防止、被害者の救済を考えたとき、そこに効果的に機能する国内人権機関があるのとないのとでは大きな違いがあるだろう。