報告 CEDAW審査に向けた団体ヒアリング

2023年12月4日、衆議院第一議員会館多目的ホールにて、「第9回日本報告に対する女性差別撤廃委員会の審議に向けた喫緊のジェンダー平等課題に関する団体ヒアリング」が、女性差別撤廃条約実現アクション、mネット・民法改正情報ネットワーク、国際婦人年連絡会、反差別国際運動(IMADR)の主催で開催された。

このヒアリングは、2024年10月7日〜10月25日に予定されている国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)の日本審査に向け、日本政府の現状認識や対応などについて意見交換をおこない、今後CEDAWに提出するNGOレポートに活かすなど、条約実施をめぐる現場の課題に基づき審査が実施されるよう、NGO側の準備を目的として開かれた。限られた時間でのヒアリングということもありNGO側が事前に準備した質問に沿って回答と意見交換がおこなわれた。

この日、取り扱われることとなったテーマは以下の6つ。

1)日本審査に向けた政府の取り組みについて

2)女性差別撤廃条約選択議定書の批准について

3)選択的夫婦別姓について

4)杉田水脈議員のマイノリティ女性に対する差別発言と国内人権機関について

5)男女賃金差別の解消について

6)婚姻平等法の制定について

また、省庁からは、外務省、法務省、厚生労働省、内閣府、内閣人事局、総務省からそれぞれ質問項目に関係する担当者が出席した。
ヒアリングには、女性議員を中心に与野党を問わず15人の国会議員が参加した。NGOからの発言に重ねて質問をおこなう議員の積極的な発言もあった。
当日のヒアリングから、主な議論を要約して報告する。

 

選択議定書の批准について

女性差別撤廃条約の選択議定書に批准し個人通報制度を導入することについて、NGO側からは「CEDAWから2003年、2009年、2016年に勧告を示されている」こと、その間、日本政府は20年にわたって「検討」を続けていること、選択議定書の採択について地方議会では209もの意見書が可決されていることなどを示した上で、「日本の司法制度、立法制度、実施体制との関係でどのような問題が残されているか?」と質問したものの、政府側からは具体的な回答はなく、終始、「検討すべき論点が残されていると考えている」と述べるにとどまった。

この回答に対し、mネット・民法改正情報ネットワークの坂本さんからは、2009年には選択議定書の批准に向けた機運が高まっており、いま言われているような課題はその時に解決済みで、より具体的な検討がおこなわれていたことを指摘し、選択議定書の批准に至らないのは政治の問題であることを強調した。その上で、ヒアリングに参加した国会議員に対し、政治を動かすために超党派で議論を進めていくことを求めた。

 

選択的夫婦別姓

選択的夫婦別姓について、NGO側からは、1996年の法制審議会の答申において、すでに民法改正案が示されているにもかかわらず法改正が進んでいないことは不誠実ではないかと指摘し、法務省に今後の対応を問うた。

法務省は、この問題には「現在でも国民の間にさまざまな意見がある」とし、国民間、また国会での議論を経てコンセンサスが得られるよう、今後も情報提供をおこなっていきたいと述べるにとどまった。

 

マイノリティ女性への差別発言・国内人権機関

杉田水脈議員のマイノリティ女性に対する差別発言・国内人権機関の設置については、反差別国際運動から小森が発言をおこなった。まず、日本では対症療法のような形で個別の法律が制定されてきたことに触れ、本来であれば個別の課題にとどまらずマイノリティの権利をより積極的に認め、保護・伸長につとめる法律や施策が必要であることを強調した。また、差別が繰り返されているなかで、社会全体としてどのようにこの課題を克服していくか、という視点が重要であるにもかかわらず、それが欠落しているのではないかとも述べた。

杉田水脈議員による「人権の定義に法的根拠はない」「人権侵犯認定制度はおかしい」などの度重なる差別言動について、是正に向けて動くのか尋ねると、法務省は個別の人権侵犯認定事案を前提とした質問については「関係者のプライバシーに関わる」として回答をせず、また「個々の議員の個別の言動について」も回答は差し控えるとした。一方で、一般論としては「人権侵害による被害の救済とその予防を図ることを目的に、事案に応じて適切な処理をおこなっており、今後もそのように実施していく」と述べた。

この回答について小森から再度発言をおこない、杉田議員の差別行為に関して、議員個人の言動などと一般化されるような事案ではなく、ヘイトスピーチであることを厳しく指摘した。また、法務省が人権侵害の被害救済と予防のために人権侵犯認定制度などを運用していると述べたことについて、人権侵犯を認定されて以降も繰り返されている杉田議員の差別言動自体が、現行制度による救済や予防に効果がないことを如実に示していると語り、杉田議員個人を指弾するということではなく、こうした問題が生じてしまうということが制度上・構造上の欠陥を明らかにしているという認識を示した。

国内人権機関の設置について、法務省は従来と同様、「不断に検討をおこなっている」とし、個別法による人権救済を推進していくと述べた。

 

男女間賃金格差の解消

男女間賃金格差の解消に向けた取り組みについて厚生労働省は、女性活躍推進法に基づいて是正のためにどのようなことができるか検討していきたい、と回答した。

これに対して、女性差別撤廃条約実現アクションの浅倉さんは、積極的な検討を進めるという回答に期待したいと述べた一方、女性活躍推進法には限界があることを指摘した。女性活躍推進法では、賃金格差の把握義務・公表義務はあるものの、実際に賃金格差があった場合にどのように是正させるかという手立てがないと語り、より強力な施策の例として、EUの賃金透明化指令に言及した。この指令では従業員規模が100人以上の企業などに対し、定期的な男女間賃金格差の公表を義務付けるほか、公表の結果5%以上の格差があり、かつ、その正当性を証明できない場合は、労使が共同で検証や是正措置などをおこなうことを加盟国に求めている。実際にイギリス、フランス、ドイツではこうした立法が進んでいるとし、日本でも実効性のある法改正を求めたいと述べた。

このテーマについて代表として質問をおこなった女性差別撤廃条約実現アクションの柚木さんは、賃金格差が30年以上経っても解消されていないことについて憤りを示し、「検討を進める」と回答する厚労省に対して、本来ならばすでに実効性のある施策が講じられているべきであり、いまだに施策を検討するなどと言っているのではこの先も賃金格差が是正されることはないという危機感を持ってほしい、と迫った。

また、同じく女性差別撤廃条約実現アクションの亀永さんは、ジェンダー平等の実現に向けた様々な課題の根本に賃金格差の解消があることを強調し、女性が1人でまともに働いてまともに暮らせるあり方をつくることが重要であると述べた。

 

婚姻平等法の制定

婚姻平等法の制定について、今後の対応に関する質問に対し、法務省は、同性婚制度を導入することは「我が国の家族のあり方の根幹に関わる問題」であるとし、国民的な理解とコンセンサスを得る必要がある、と従来の回答を繰り返した。また、国民各層の意見や国会での議論、同性婚に関する訴訟、地方自治体でのパートナーシップ制度の状況を注視したいと述べた。

 

政治のイニシアティブが求められる

閉会の言葉を述べた司会の亀永さんは、取り上げたテーマのほとんどが「政治のイニシアティブの問題」になっていると述べ、市民社会はもちろん各省庁のさらなる努力を求め、この閉塞した状況を打破していきたいと語った。

「政治」はいつになれば動くのだろうか。秋に迫っているCEDAW審査まで、残されている時間はそれほど多くはない。

 

(IMADR事務局)