本の紹介『現代世界と人権27「戸籍」人権の視点から考える』

『現代世界と人権27「戸籍」人権の視点から考える』
反差別国際運動(IMADR)編集・発行
解放出版社 1,500円+税
2023年11月

IMADR事務局

日本の戸籍制度は固有で、他国の住民登録制度とは大きく異なります。日本国籍者であることを前提にし、戸主単位で作られ、その家の系譜の記録にもなるこの制度は、特定のマイノリティ集団への差別に加担してきたのではないでしょうか。
例えば、戸籍に記載された本籍地や家族関係を調べることで、これまで数え切れないほどの部落差別が行われてきました。日本も加入している国際人種差別撤廃条約の第一条は、差別の根拠の一つに世系(血統や系譜)を定義しており、国連は、部落差別は世系に基づく差別であると見解を出しています。
戸籍制度はどのような目的で作られ、どのような役割を果たしながら、現在に至るまで維持され機能してきたのでしょうか。どのような問題をもたらしてきたのでしょうか。反差別国際運動は、戸籍制度の歴史を振り返り、この制度がもたらす問題に取り組んできた研究者および活動家に議論をしていただくことで、現代社会における「戸籍制度」を人権の視点から実践的に明らかにする連続講座を2022年に開催しました。
6回にわたる講座はいずれも本質を突くものであり、示唆に富み、刺激的です。各回の講演内容を文字にして、本書に収めました。一人でも多くの方々に読んでいただけることを願ってやみません。
(「はじめに」より)

本書は、「はじめに」で述べている通り、2022年に開催した「IMADR連続講座『戸籍』人権の視点から考える」の講演録である(一部、収録していない講座がある)。
第1章は二宮周平さん(立命館大学名誉教授)による「戸籍」の全体像をつかむための総論的なパートとなっており、その後の章を読み進めていく足がかりになる。また、この章のタイトルにある「戸籍から個籍へ」という言葉で示されているように、向かうべき方向もすでに示唆されている。
第2章は遠藤正敬さん(早稲田大学台湾研究所非常勤次席研究員)による講演がまとめられている。「戸籍」の歴史的文脈とその機能を検討し、特に日本の植民地主義のなかでどのような役割を果たしてきたのか、またそれが戦後、そして現在に至るまでどのような影響を持っているのかについて触れられている。
第3章は、研究者であると同時に自身でさまざまな活動もされている、梁・永山聡子さんによる講演で、戸主制/戸籍制度の廃止に至る韓国社会のフェミニズム、社会運動を丹念に見ていく。日本による植民地支配を受けた朝鮮・韓国社会からの視点が語られているという点で、第2章に呼応するような内容になっている。
第4章は、井戸まさえさん(元衆議院議員、NPO法人「親子法改正研究会代表理事」)の無戸籍問題への取り組みを中心とした内容となっている。日本国内で、戸籍をめぐって生じる具体的な問題に当事者がどのように取り組み、どのように展開してきたか。これもまたある意味で第3章と対をなす内容だ。
第5章では再度、遠藤正敬さんにご登場いただき、現在進行形のテーマとして戸籍とマイナンバーの関係、その違いについて検討している。登録単位が「個」であるか「家」であるか、「デジタル」的な管理と「アナログ」的な管理の違いと、それらが組み合わさることでもたらされるものは何なのだろうか。
あらゆる人の権利が尊重され、差別のない社会をつくるために求められる登録制度はどのようなものか、この本を手がかりにともに考えていただきたい。

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