髪質・髪色はひとつじゃない、あらゆる生徒の髪が尊重される学校への変革

代表 川原直実 メンバー エリカ

Japan For Black Lives

団体について
Japan for Black Livesは、黒人差別の現状を発信し、差別問題への理解や解決のために活動している当事者を含む市民団体である。現在約10名のメンバーが在籍している。
2020年5月にアメリカで起きた、警官によるジョージ・フロイド氏の殺害をきっかけに、これまでアメリカ国内にあった「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)運動」が世界規模に拡大した。アメリカでは連日、各地で抗議デモが続き、それを制圧しようとする警察部隊との衝突が激化し、混沌としていた。
フロイド氏殺害から9日後、日本在住(当時)のアフリカ系アメリカ人で、ダンサーのテリー・ライトの呼びかけで「ブレイク・ザ・サイレンス/ブレイク・ザ・バイオレンス」と題したパネルディスカッションを開催した。日本とアメリカからアフリカ系アメリカ人のゲストスピーカー7人を迎え、通訳を入れてのディスカッションは夜中まで4時間続き、国内外から2000人以上が視聴した。その際に主催者としてJapan for Black Livesを名乗ったのが当団体の始まりである。
日本は音楽やダンス、ファッションをはじめとした黒人文化を好む人が非常に多く、文化を消費することで恩恵を受けている。一方でその文化を生み出した人たちが受ける差別の問題は、あまり認知されておらず声を上げる人が少ないのが現実だ。日本でも当たり前にブラック・ブラウンの方々が生活しており、そのバックグラウンドも、外国籍、日本国籍、そしてミックスルーツなど多様だ。彼らもまた、ここ日本で構造的人種差別や偏見、マイクロアグレッションといった問題に直面しているのである。
Japan for Black Livesは、これまで可視化されることが少なかった国内での黒人差別の現状を紹介し、ともに声を上げるアライを増やし、改善へ働きかけることを使命として活動している。

署名開始のきっかけ
2023年3月28日、「黒人伝統の髪形は校則違反? 隔離された卒業生『返事もできず』」(毎日新聞)で、とある学校の卒業式に生徒(父親が黒人)がコーンロウ(アフリカにルーツのある人々が大切にしている髪型の一つ)で参加しようとしたところ、学校からの指示で他の生徒から隔離を指示され、式典中に名前を呼ばれた際に返事をすることも禁じられたと報じられた。
この記事はSNS上で、学校側の対応に対して異議を唱える意見と賛成を示す意見の双方が対立する形となり話題になった。Japan for Black Livesでは学校側の対応は生徒の尊厳や文化的な背景を傷つけただけではなく、偏見やステレオタイプに基づく差別であると考えた。
また、以前から問題視していた「地毛証明書」の提出を生徒に求めることや、特定の髪型を禁止すること、そして教師がクラスメイトの前で生徒の髪を切る、水をかける、触る、生まれ持った髪質や髪色に対して否定的な意見を述べること、さらには学校側から生徒に対して理想の髪型(または髪色)を提示し、その理想に近づけるように生徒に指導をするといった学校側の一方的な価値観に基づいた対応を変えていくように声を上げるべきだと考えた。
そこで、文部科学省に対してあらゆる教育機関において生徒の頭髪と基本的な権利を守るために3点の要望を求める署名を3月30日に開始した。

要望:
1. 差別的な行為の禁止・問題のある校則の見直しの通達
2. 専門家による講習会・資料提供の場を定期的に設けること
3. 当事者や家族の話に耳を傾けること

学校内で起きる髪型・髪質差別
まず、生まれ持った髪色や髪質に対して学校側から指導がなされる可能性は民族的もしくは国民的出身、人種に関わらず誰にでも起きうることを指摘する。また、髪型に対しても「受験にふさわしい髪型」、「自然で清潔な髪型」、などといった抽象的な規定によって、現場の教師の主観に任せた運用であるため、誰が指導の対象になるかを予見することはできない。
一般的にカーリーヘアの場合は、髪の保水が難しいため非常に広がりやすい。また髪が摩擦に弱い傾向にあり、乾燥しやすく絡みやすい髪質である。こういった痛みやすく切れやすい髪の毛を保護するための髪型をプロテクティブスタイルと呼ぶ。例えば頭皮に髪を編み込むコーンロウと呼ばれる髪型だ。このプロテクティブスタイルを学ぶ機会があった教師は日本国内にどれほどいるのだろうか。現在の教師たちは個人的に持っている無意識のイメージで髪型の良し悪しを決めているという懸念は拭えない。
こういった話をしていると、学校は規律やマナーや道徳を学ぶ場であることから縮毛矯正やストレートパーマ、または短髪にするといった対応で、求められているスタイルに合わせるべきだという意見を述べる声も少なくない。だが、この意見はさまざまな問題と当事者生徒に対する加害性を孕んでいる。
縮毛矯正やパーマについては、生徒が負担しなければならない金銭的負担の課題がある。例えば縮毛矯正の相場は8,000~15,000円ほどである。全ての家庭が毎月もしくは2ヶ月に一度、定期的にこの料金を支払い続けられるとは限らないだろう。これは特定の髪質の生徒を対象として生み出された不利益構造だ。
さて先に紹介した、求められている髪型に生徒が合わせるべきだという意見の背景にある問題にも注目したい。テクスチャリズムとヘアーディスクリミネーションだ。テクスチャリズムとはストレートな髪質や緩やかなカールの方が強いカーリーヘアよりも美しく、有利に扱われること。ヘアーディスクリミネーションは髪質や髪型に基づく差別である。
署名へのコメントやInstagramでのライブをきっかけに実施したアンケートには、天然パーマであるか確認するために頭から水をかけられた、あるいは、複数の教師に囲まれて髪の毛を触られたという事例や、ストレートヘアの生徒を指差して「あの髪の毛になるようにケアするように」と指導されたといった事例も寄せられた。これらは偏見とステレオタイプの助長につながるだけでなく、本人への影響として、自己評価や自己肯定感が下がってしまう可能性を大いに秘めている。

署名提出
9月7日に、福島みずほ参議院議員、そして反差別国際運動事務局長代行小森恵さん、Japan for Black Lives 代表の川原と文部科学省に赴き、児童生徒課・国際教育課の職員に署名簿(提出時点で37,694筆)を手渡し、その場で意見交換を行った。その後、林純子さん(弁護士、東京弁護士会)、下地ローレンス吉孝さん(カリフォルニア大学バークレー校客員研究員)を加えて記者会見を実施した。
大きな収穫となったのは、意見交換の際に最新の生徒指導提要のご紹介をいただいたことであった。この提要には、絶えず校則の見直しを行うこと、児童生徒が主体的に校則の見直しに意見を表明することは教育的意義を有すると明記されている。

冷笑主義への対抗
この署名を立ち上げてからSNS上では声をあげるものを小馬鹿にして冷笑するといった反応が散見された。特に多く見られたのは郷に入ったら郷に従えという趣旨の内容だ。
学校内で起きている髪質や髪色、髪型に基づく差別は、特定の髪質の人々に自分らしさを抑えなければならない状況を生み出している。改訂版の生徒指導提要に書かれていることは学校という「郷」に入った者(生徒)が、自ら意見を述べることに教育的意義があるということだ。
生徒自身が「郷」のあり方を疑い、その学校に通う生徒たちに合わせて「郷」を変えていくことが必要だという意味である。
この姿勢は学校を卒業した人々も体現していく必要がある。自分自身の行動がステレオタイプや偏見の助長をしていないかとよく考える必要があるのではないだろうか。
学校を、日本を、過ごしやすい郷(場所)にしていこう。

●かわはら なおみ、エリカ