本の紹介『ロマ民族の口述伝承─童話・笑話・怪談・猥談・物語』

『ロマ民族の口述伝承─童話・笑話・怪談・猥談・物語』
金子マーティン編訳
三一書房 2,200円+税
2023年1月

大賀 喜子

語り部集団・なにわ語り部の会会員

昔話の語り部の立場から─お話で、ロマ民族への差別撤廃を訴えることができる待ち望んだ好著
長年にわたり反差別国際運動事務局次長をされ、ロマ民族への偏見と差別撤廃を訴え続けてこられた金子マーティンさん編訳著の『ロマ民族の口述伝承─童話・笑話・怪談・猥談・物語』が三一書房から出版された。
図書館等で手にできるロマ民族の伝承には、ポーランド人の有名な「ジプシー学者」、フィツォフスキの再話による絵本『なんでも見える鏡』、絵本『たいようの木のえだ』、昔話集『太陽の木の枝』および、それを二冊に分けた昔話集『太陽の木の枝』、『キリの国の王女』がある。どれも福音館書店の出版で、金子マーティンさんが「死語」にしたいと訴える「ジプシー」が使用されている。その呼称の問題に加え、これらの絵本や昔話集にはロマ民族の苦闘と迫害の歴史の説明もないので、お話の深い理解は不可能だった。それ故、これらの絵本や昔話集からロマの昔話を語るのは、私には躊躇があった。
しかし本著は、ヨーロッパ各地のロマ民族の人々から聞き取ったお話から30話を選択し、語り手や伝承者の名前・人物像・写真を交えながら、迫害との闘い、ナチスの絶滅強制収容所を生き延びた過酷な体験、インド源流のロマ民族の歴史等が記述されている。それ故、お話に込められた思いが私たちにも伝わり、語りを通してロマの人々の思いを伝えることができる。
私たち語り手の多くは、中間層に属する識字者であり、マイノリティの人々との接点が少ない階層だが、お話を語ることで、今まで知らなかったロマ民族の差別、迫害の歴史を知ることができる。その意味でも、画期的な口述伝承書であると考える。
さらに本著には、考慮を必要とする点として、ロマ民族には家父長制の意識(女性差別)が強いこと、さらに、長年の差別迫害の歴史のため、建国神話等には自民族優越思想が反映されている等の問題点が挙げられている。この指摘は、日本文化、日本のマイノリティにも潜んでいる課題ではないかと考える。
私たち昔話の語り部にとっては、これまでロマ民族の苦難の歴史を知る機会は皆無であり、「ジプシー」という呼称を使って語り、ヨーロッパ旅行の際には、添乗員の「ジプシーには気をつけて」の言葉に疑問もなく従った。お話を通じて、ロマ民族のインド起源説や、中世ヨーロッパ社会では奴隷・農奴と抑圧され追放された歴史、第二次大戦中から現代に続く迫害、それにロマ民族の反差別運動などを学ぶことができた。
さらに、ロマ民族では、昔話の語り手は男性で、男性のみの集まりで語るというのも驚きであった。猥談を女性たちが嫌うこと、子どもの教育上の配慮からとの理由である。語りの世界が日本と違う点にも興味が引かれた。

 

─実際に、子どもたちに語ってみて─
雑誌『部落解放』2023年5月号(838号)で友永健三さんの書評を見て、この本を買いに行き夢中で読んだ。念頭にあったのは、月一回の地元の西淡路小学校での朝の読書の時間に、小学生たちに語れるお話を探すことだった。選んだのは、1『粉屋の息子と竜』。選択した理由は二つ。一つは、日本の桃太郎のお話とルーツが同じである点。二つ目は、若者が竜を退治した後、王になれとの命令をきっぱりと断り、権力者にならず、家業の粉屋を妻(助けた王女)と共に継ぐという点であった。5年生に語り終わると、子どもたちから「桃太郎と同じや」という声が上がった。その後、子どもたちとロマ民族についての話が弾んだ。語り部の一人の方から、「私は14『商人』のお話に興味がわきました。このお話を読んでいるとイギリスの昔話『魚と指輪』との類似点があることにも気付きました。結末は、違いますが。」という感想を頂いた。
どうか皆様!この本を手に取り、ロマ民族の口述伝承の世界を楽しんでいただき、あわせて『おはなしおかわり─大阪府内の被差別部落の民話』(解放出版社)も読んでいただきたい。さらには、アイヌ民族、沖縄・琉球民族、そして世界のマイノリティの人々のお話の世界にも興味を持っていただけたらと思う。

●おおが よしこ