被爆二世運動の現状と課題─被爆二世や将来世代を含む核被害者の人権確立と核廃絶をめざして─

崎山 昇

全国被爆二世団体連絡協議会会長、被爆二世集団訴訟原告団長

今年5月に開催されたG7広島サミットは核廃絶と逆行するものとなった。そして、長崎でのG7保健大臣会合では被爆二世・三世の援護について何ら語られることはなかった。

「原爆被爆二世」
「原爆被爆二世(被爆二世)」のことをご存知だろうか。
日本が過去に起こしたアジア・太平洋戦争によって、1945年8月6日広島に、8月9日長崎に、アメリカ軍によって原子爆弾(原爆)が投下された。そして原爆被爆者(被爆者)が生み出された。私たち被爆二世は、両親またはそのどちらかが被爆者であり、親が被爆した後に生を授かった子どもたちである。
私の両親は、長崎原爆の被爆者であり、私は被爆二世である。私たち被爆二世は、被爆者としての親の苦しみを見てきた。そして、私たちは、自らも原爆放射線の遺伝的影響を否定できない状況に置かれた原爆の被害者である。これまでに多くの被爆二世が、被爆者である親と同じようにガンや白血病などで亡くなってきた。私も、膵臓に嚢胞があり、母と同じように膵臓ガンにかかるのではないかと不安を抱いている。戦争中、原爆が投下された当時には生を授かっていなかった被爆二世が、原爆放射線の遺伝的影響によって、過去と現在の健康障害に苦しみ、将来の健康不安に怯えている。さらに、結婚や就職などにおける深刻な社会的偏見や差別にも苦しんでいる。私たち被爆二世は、原爆(核)の人権侵害の最たるものの一つが、放射線の次世代への影響であることを、自らの体験から強く訴える。
1973年に初めて広島で被爆二世の団体が誕生、その後被爆二世の組織化が進み、1988年12月に全国被爆二世団体連絡協議会(略称:全国被爆二世協)が発足した。全国被爆二世協は、原爆被爆者の体験を継承し被爆者および被爆二・三世の人権を確立し、生命と健康を守り、あわせて核被害をなくし、核廃絶と完全軍縮を実現する運動を行うことを目的としている。
全国には30万人とも50万人ともいわれる被爆二世が存在している。この数字は全国被爆二世協が推定したものである。国は、全国にどのくらいの被爆二世が存在しているのか、それさえも調査しようとしてこなかった。全国被爆二世協では、結成以来、30年以上にわたって、国や国会に対して、原爆二法の適用や被爆者援護法の適用を求め続けてきた。毎年のように国に要請書を提出し、国と交渉を重ねるとともに、国会にも働きかけを行ってきた。しかし、被爆から78年を迎えようとしている今日に至っても実現していない。

 

新たなたたかい
全国被爆二世協は、このままではおそらく国や国会は何もしないだろうと、被爆70年を迎えた2016年2月に被爆地広島で開催した総会で2つの新たな活動方針を決定した。
① 被爆二世問題を国際社会(国連人権理事会)で人権侵害として訴え、日本政府に被爆二世の人権保障を求める取り組みを進める。
② 裁判を通して、被爆二世に対する援護対策の実現をめざす。
そして、それ以降、国連人権理事会や核不拡散条約(NPT)再検討会議、核兵器禁止条約(TPNW)締約国会議など国際的取り組みや、国内的には「原爆被爆二世の援護を求める集団訴訟(被爆二世集団訴訟)」を通して、被爆二世や将来世代を含む核被害者の人権確立と核廃絶をめざしている。
2017年10月にジュネーブへ国連欧州本部訪問団を派遣するなど、同年11月に行われた国連人権理事会の普遍的定期審査(UPR)第28会期作業部会に対する取り組みを行った。その結果、コスタリカとメキシコが日本政府に対する勧告の一つとして「被爆二世問題」を盛り込んだ。日本政府は、コスタリカやメキシコの被爆二世に関する勧告は受け入れなかったが、国連人権理事会で被爆二世問題が議論されたのは、初めてのことであり画期的なことだった。そして、今年1月から2月にかけて開催された普遍的定期審査(UPR)第42会期作業部会における日本審査に向けた取り組みも行ったが、日本政府に対する勧告にはつながらなかった。しかし、今後も国連人権理事会において被爆二世の人権確立を訴えていく取り組みを継続していくことにしている。
2018年4月から5月にかけてNPT再検討会議第2回準備委員会がジュネーブの国連欧州本部で開かれた。全国被爆二世協では、初めて参加団体としての認定を受けて、代表団を派遣し、被爆二世の人権保障と核廃絶を訴えるサイドイベントを開催するなどの活動を行った。そして、2022年8月にニューヨーク国連本部で開催された第10回NPT再検討会議にも代表団を派遣し、被爆三世とともにサイドイベントを開催し、NGO意見表明セッションで会長のビデオメッセージを流してもらうなど、被爆二世の置かれた状況や思い、被爆二世や将来世代を含む核被害者の人権確立と核廃絶を訴える活動を行った。
2022年6月にウィーンで開催されたTPNW第1回締約国会議に向けて、全国被爆二世協では参加団体としての認定を受け、条約第6条の「被害者に対する援助」に関して、被爆二世や将来世代を含む核被害者を「被害者」の対象とすることや、日本の被爆者援護法の本来の立法趣旨に基づいた総合的な援助を行うことを提案する作業文書を提出した。また、ウィーンへ代表を派遣しICAN市民社会フォーラムの被爆二世・三世に焦点を当てたセッションで、核兵器禁止条約の批准や、被爆二世や将来世代を含む核被害者を第6条の「被害者に対する援助」の対象とすべきであることなどを訴えた。
2017年2月、広島地裁に22人の原告が、長崎地裁に25人の原告が被爆二世集団訴訟を提訴した。広島原告は親が広島で被爆した被爆二世であり、長崎原告は親が長崎で被爆した被爆二世である。現在、広島原告28人、長崎原告28人。
私たちは被爆二世が被った長期間にわたる多大な精神的損害として、原告1人につき10万円の慰謝料を請求している。しかし、私たち原告個人が慰謝料を勝ち取ることが訴訟の目的ではない。私たち全国被爆二世協の会員が、被爆二世を代表して訴訟を起こし、この訴訟を通して、問題の所在を社会的に明らかにし、すべての被爆二世を援護の対象とする国による立法的措置の契機とすることを目的にしている。
被爆二世集団訴訟は、長崎地裁では2022年12月12日に判決が出され、広島地裁では今年2月7日に判決が出された。いずれの判決も、私たちの請求を棄却する不当判決だったが、被爆二世に対する原爆放射線の遺伝的影響の可能性については否定できなかった。司法がこのような判断を示したことは初めてのことであり、歴史的な判決と言える。両地裁の判決は被爆二世問題の解決を国民的課題に押し上げることにつながった。そして、被爆二世集団訴訟は両地裁とも控訴し、長崎訴訟は6月29日に福岡高裁で第1回口頭弁論が行われ、広島訴訟は10月24日に広島高裁で第1回口頭弁論が行われる予定である。私たちは、原爆放射線の遺伝的影響の可能性を否定できなかった地裁判決を一歩として、被爆二世の援護に道を拓くために控訴審でのたたかいを頑張っていく決意を新たにしている。

 

核被害者の人権確立と核廃絶への歩み
私たちは核の人権侵害の最たるものの一つが放射線の次世代への影響だと思っている。国際的取り組みや被爆二世集団訴訟は、日本の被爆二世の問題にとどまらず、朝鮮半島など世界の被爆二世、フクシマの被害者やチェルノブイリなど世界の核被害者の将来世代の人権確立にもつながる。そして、放射線の次世代への影響や核と人類は共存できないということが世界の共通認識となれば、原発も含む核廃絶につながるものと確信している。
被爆二世や将来世代を含む核被害者の人権確立と核廃絶をめざすたたかいは、私たち被爆二世の使命であり、責務であることを自覚し、頑張っていきたい。
皆さんのご理解とご支援、ご協力をお願いしたい。

全国被爆二世協のホームページ: http://www.c-able.ne.jp/~hibaku2/

●さきやま のぼる