2023年6月6日、日比谷図書文化館コンベンションホールにて第35回総会を開催した。全国から99名の会員が集まってくださった。2022年度は、新型コロナウイルス感染症の影響が残っていたものの、コロナ禍以前の日常も徐々に戻りオフラインでの活動も増えてきた。
昨年2月、ロシアによって始められたウクライナ侵攻は現在も続いている。組坂繁之共同代表理事は、戦争が最大の人権侵害であることを改めて訴え、「平和なくして人権なし、人権なくして平和なし」と力を込めて語った。
2022年度の活動について、小森事務局長代行は「国際人権」「ネットワーク」「トレーニング」「情報発信」という4つのキーワードを挙げて報告した。「国際人権」では、2022年10月には自由権規約委員会の審査で、2023年1月には国連人権理事会におけるUPR審査で、日本政府に対して厳しい指摘が相次いだ。差別、人権に関わる深刻な課題が次々とあらわになる中、今までも関連する団体などと「ネットワーク」を構築してきたが、その重要性がより高まっている。また、次世代の育成という側面から「トレーニング」を提供するなど、国際人権基準や制度の活用に関する教育にも力を入れた。従来から続けてきた「情報発信」に加えてSNSやHPなどオンライン上でも、市民社会が活用できる情報を提供するよう努めた。
反差別法制定の必要性は日本においても明確である。IMADRは現在、2022年12月に国連が公表した「包括的差別禁止法制定のための実践ガイド(タイトル仮訳)」の日本語訳の発行に向けて動いている。これを2023年度の活動の中心に据えていく。
また、理事としてインドからNCDHR(National Campaign on Dalit Human Rights)のビーナ・パリカル(Beena Pallical)を新たに迎えることとなった。
共同代表理事のニマルカ・フェルナンドがオンラインにて総会に出席し、閉会の挨拶で次のように述べた。
「私がIMADRに関わり始めたのは1993年のこと。長い年月が過ぎたが、今も人種主義・差別に立ち向かう一員でいられることを嬉しく思っている。世界人権宣言の採択から75年が経ったが、人種主義の問題は未だにはびこっている。コロナ禍の困難な時期を経て、私たちが何かを学べるとすれば、そうした問題がいまだに根深いということだろう。山積している数々の課題はIMADRの活動や理念が今も変わらずに重要であることも示している。様々な国や地域で起きている経済危機によって、貧困層や女性、世系に基づく差別を受けている人びとや、マイノリティグループなど脆弱な立場に置かれている人びとが特に大きな影響を受けている。また、極右や過激主義的な勢力がマイノリティを抑圧している。様ざまな困難があり続けるからこそ、ともに闘い続ける必要があるということを皆さんに呼びかけたい。」
総会終了後は、IMADR顧問で弁護士、元国連女性差別撤廃委員会委員長の林陽子さんに記念講演「包括的差別禁止法が拓く未来」を行なっていただいた。日本の差別禁止法制の現状と、それに対する人権条約機関からの指摘や勧告、そして包括的差別禁止法とは何なのか、またその必要性について示唆に富むお話を聞くことができた。
講演の中では、国会での論戦が佳境にあった「LGBT理解増進法」についても触れられ、どのような議論が交わされているのか、その背景にある経緯、課題について紹介があった。林さんは、ここ数年の間、SOGIに基づく差別に対抗する運動が力をつけてきたことに言及し、心強く感じていると述べた上で、それ以前から続いてきたマイノリティの権利擁護・差別撤廃の取り組みの歴史を射程に入れた運動を展開していくことが重要だとした。
司法の場では同性婚訴訟や旧優生保護法訴訟の判決で進展も見られ、IMADRなどが行ってきた人権や反差別の訴えが少しずつ伝わってきているのではないか、とも語った。
(報告:IMADR事務局)