国連人権理事会UPR日本審査

1月31日、スイス、ジュネーブの国連本部にて国連加盟国が他の加盟国の人権状況を審査するUPR(Universal Periodic Review、普遍的定期的審査)の日本審査が行われた。審査では、国連加盟国193カ国のうち、115カ国が意見を表明し勧告を提示した。これらの意見と勧告は、審査に際して出された日本政府、NGOからのレポートや国連人権諸機関が出した総括所見などの関係文書を参照しながら出されている。数々の勧告や意見がUPR審査のレポート案となり、人権理事会にて採択後、正式なものとなる。今回は、約300項目にわたる勧告が示された。日本政府は、ここで示されたすべての勧告に対して、今年6月の人権理事会までに、受け入れるか否かの態度表明を行う必要がある。

 

どのような勧告が提示されたのか
最多の29カ国から出た勧告は、独立した国内人権機関の設置を促す勧告と、死刑制度の廃止あるいは、その執行停止を促す勧告であった。いずれも1回目のUPRから常に多数の国から勧告をうけてきた。
差別禁止法の制定も20カ国から勧告をうけた。現行のヘイトスピーチ解消法に禁止や罰則規定がないことも数カ国から指摘された。
自由権規約や障害者権利条約など、人権諸条約の個人通報制度の採択については10カ国から勧告をうけた。
もっとも関心が集まったのはジェンダー、性的指向・性自認に関する課題であった。依然として世界ジェンダーギャップ指数が低位にある日本(2022年は116位)に対して、27カ国がジェンダー平等と女性の政治参画の促進を勧告した。性的同意や夫婦間も含んだ性暴力への対処など、ジェンダーに基づく暴力への厳しい対応も10カ国が求めた。性的マイノリティの権利擁護と差別禁止を促す勧告は17カ国から出された。さらに、同性婚を認めるよう促す勧告も4カ国から出た。緊急避妊薬の薬局での販売許可や優生保護法の改正など、女性のセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツに関しては6カ国が勧告した。これらのジェンダーや性的指向・性自認に関する勧告は、70に及んだ。
日本の人身取引の問題は米国務省の年次報告でも毎年取りあげられてきたが、今回のUPRでも14カ国が人身取引、とりわけ女性と少女の性的搾取を目的とした取引をなくし、被害者中心の対応を促す勧告を行った。それに関連して、移住労働者の保護を促す勧告が3カ国から、そして移住労働者の権利条約の批准を促す勧告が4カ国から出された。
庇護申請中の人、あるいは退去強制令が出た移民・難民の長期収容の問題が5カ国から指摘され、特に収容の判断が司法ではなく行政手続きによることへの懸念が表明された。また、入国管理局での収容だけではなく、拘置所や刑務所を含む収容施設での医療や処遇を国際基準に引き上げる勧告が5カ国から出た。日本が批准している拷問等禁止条約の選択議定書は、こうした収容施設における人権侵害を防止するための委員会を国内に設けるよう求めている。この選択議定書の批准を促す勧告も1カ国から出された。
障害者の権利に関する問題では20カ国が勧告を行った。障害者差別の禁止、インクルーシブ教育の促進、地域社会での生活の奨励や支援、さらには女性障害者の性的虐待の防止などを促す勧告が出された。
福島原発の処理の問題、核廃棄物の処理や海洋放出の問題、さらには避難民支援の打ち切りの問題に関して14カ国が勧告を出した。
人権条約審査による専門家の勧告とは異なるものの、諸外国政府からの現場に直結した勧告は日本の人権状況の全体像を浮かびあがらせる。国連人権理事国5期目を務めた日本政府が6月までにどのような結論を出すのか注視したい。

 

●IMADR事務局