映画の紹介:スタッフの気になる映画

 

『世界は僕らに気づかない Angry son』

脚本・監督:飯塚花笑
2023年1月13日(金)より公開
公式HP: https://sekaboku.lespros.co.jp/

 この映画の主人公である純悟は、フィリピン人の母を持つミックスルーツであり、かつゲイでもあるという複合的なマイノリティとしてのアイデンティティを抱えている。監督の飯塚花笑さんはトランスジェンダー当事者であり、公開にあたって様々な場で、主人公に複合的なマイノリティ属性を託したことについて自身の経験や考えを語っている。
純悟のような複合的なマイノリティ属性を持つ人は、決して物語の中だけの存在ではなく現実社会にも暮らしているが、制度的に、そして周囲の理解がないために周縁化されている。それがたとえフィクションの中の存在である場合でも、作品によっては既存の偏見を強化するような設定を押し付けられていたり、マジョリティが期待する「模範的なマイノリティ像」に当てはめられている場合もある。
飯塚監督の口からは、そういった問題意識も踏まえてこの映画を制作したことが語られている。
複合的なマイノリティのキャラクターがどのように描かれるのか、どのような物語が紡がれ、その中で純悟はどのように生きているのか。
ぜひ鑑賞したい作品の一つだ。(SF)

 

『13th ─憲法修正第13条─』

監督:エバ・デュバーネイ
2016年作
NETFLIXで配信中

 「世界の人口の5%を占めるアメリカに世界の25%の受刑者がいる」、ショッキングな数字で始まるこのフィルムは、奴隷制廃止の憲法修正第13条制定(1865年)から今日に至るまで、アフリカ系アメリカ人がうけてきた隔離と抑圧の歴史をたどる。『奴隷制はこの法律が及ぶいかなる場所においても存在してはならない』に続き『但し、犯罪への処罰は除く』とした修正第13条は、自由になった黒人を「犯罪者」として投獄するのを容易にした。
奴隷が解放され、約400万人の労働力を失った南部の州にとって、修正第13条は渡りに船であった。無償の使役を提供する囚人が大量に生みだされ、初めてとなる刑務所建設ラッシュが起きた。すべて実録の映像と政治家、活動家、研究者などの証言をふんだんにとりこんだこのフィルムは、アメリカのレイシズムを理解するためには必見の作品である。(MK)

 

『光のノスタルジア』『真珠のボタン』

監督・脚本:パトリシオ・グスマン
2015年公開、DVD購入可、動画配信サイトよりレンタル・購入可
公式HP:https://www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/

 1973年9月11日、世界で初めて選挙で選ばれた社会主義政権を、米国CIAの支援を受けた軍部が武力で覆した。18年間続いたピノチェト政権は左派を弾圧し、3000人を超える市民を捕え虐殺した。
『光のノスタルジア』では、広大なアタカマ砂漠で行方不明になった肉親の遺骨を探す女性たちと、生命の起源を求め銀河を探索する天文学者たちが交差する。未来をより理解するために過去を見つめるという両者の共通点を映画は伝えてくれる。同時に公開された『真珠のボタン』は水の記憶を辿っていく。西パダゴニアの海底で発見されたボタンは、植民地支配により自由を奪われた先住民と、海に沈められた政治犯を繋いでゆく。いずれの作品も宇宙と大自然の映像美に圧倒される。
2021年、二作品に続く『夢のアンデス』が公開された際、監督は日本の観客に向けてメッセージを寄せた(*)。チリで起きている民衆運動に触れて「チリがこの40年で初めてより良い未来を築くために変わろうとしている。女性たちが非常に重要な役割を果たしている」、と。次回作はその女性たちを撮った映画だそうだ。(TK)