日本の人権レポート2023

ヒューマンライツ・ウォッチ発行の世界の人権レポートから一部抜粋

 

 7月8日、安倍晋三元首相が奈良県で選挙応援演説中に銃で撃たれ死亡した。山上徹也容疑者の動機は、統一教会により家族にもたらされた経済的困窮と、安倍首相と統一教会との疑わしい関係にあると報じられている。10日の参院選で自民党は過半数の議席を獲得した。
 日本には、人種・民族・宗教による差別や、性的指向・性自認による差別を禁止する法律がない。また、日本には国内人権機関がない。

 

難民
 日本の難民認定制度は、依然として認定とは逆の方向を向いている。2021年、法務省は2413件の難民申請を受理したが、認定されたのは74人だけである。一方、ミャンマーからの498人を含む580人に人道支援として滞在許可を出した。2021年の難民申請件数は、2017年の約2万件に比べ88%減であった。
 ロシアによるウクライナ侵攻以降、日本はウクライナから2035人を「避難民」として受け入れた(2022年10月19日現在)。2022年8月、法務省は、タリバン政権のアフガニスタンから逃れてきた133人にも難民認定を行ったと発表した。

 

女性の権利
 改正民法731条が4月に施行され、女性の婚姻開始年齢が16歳から18歳に引き上げられ、児童婚が事実上廃止された。
 2022年初めから後半にかけての一連の裁判で、東京地裁は、入学差別で提訴した原告に損害賠償を支払うよう大学側に命じる判決をだした。この訴訟は、複数の大学医学部が女性や浪人の受験生を差別していたことに対し2018年から始まった。日本には男女雇用機会均等法があるが、適用は雇用の分野だけである。

 

性的指向と性自認
 広範な市民運動にもかかわらず、「LGBT理解増進法案」の提出が最終的に見送られた。日本政府は同性婚を認めていないが、東京都を含むいくつもの地方自治体が、同性カップルに法的効力のない「婚姻」の証明書を発行する制度を開始した。これら自治体の総人口は国の人口の半分以上を占める。トランスジェンダー(性同一性障害)の法的認定に、政府は依然として不妊手術を義務付けている。2021年11月、最高裁は、「性同一性障害特例法」の差別的要件である「未成年の子がいないこと」を合憲とする判決を初めてだした。

 

ビジネスと人権
 9月、経産省は「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」を発表した。これは、日本企業の人権デューディリジェンスについてまとめた日本初のガイドラインである。この拘束力のないガイドラインは大幅に強化されるべきである。日本は、日本の企業が事業展開やグローバルなバリューチェーンにおいて人権基準や環境基準を尊重するように規制する法律を採択すべきである。

 

外交政策
 日本は、「人権の促進と保護は国際社会の正当な利益である」、「重大な人権侵害には国際社会と協力して対処する必要がある」と公式に表明している。
9月、日本は、ミャンマー軍による4人の民主化運動家の処刑を主な理由に、ミャンマー軍の将校や士官候補生の訓練の受け入れを停止すると発表した。2021年2月1日の軍事クーデター後、日本は同国から8人の軍人を訓練のために受け入れていた。この発表より先にヒューマン・ライツ・ウォッチが行った調査では、重大な人権侵害に関与したミャンマー軍の部隊に、日本で訓練された将校が含まれていたことが判明している。
 中国政府による新疆ウイグル自治区や香港での人権侵害への対応として、日本は2022年の北京冬季五輪への政府代表団派遣を行わないと発表した。五輪開会の数日前、日本の国会議員は新疆、チベット、内モンゴル、香港の人権問題を強調する国会決議を採択した。この決議は、「国際社会と協力して深刻な人権状況を監視すること」および「包括的な救済措置を実施すること」を求めている。
日本は、武力紛争における学生、教員、学校、大学への攻撃の防止と対応を強化することを目的とした国連加盟国の政府間誓約である「安全な学校宣言」*に賛同していない。

(訳:IMADR事務局)

 
*2015年にノルウェーとアルゼンチン政府のイニシアチブで賛同の呼びかけが始まった宣言。2022年現在、世界112カ国の政府が賛同している。