IMADRでは2022年6月から2022年12月にかけてオンラインにて、「IMADR連続講座『戸籍』—人権の視点から考える」を全7回にわたって開催した。
この連続講座は、「戸籍」をめぐる問題に取り組んできた方々を講師として迎え、現代社会における「戸籍制度」を、人権の視点から見つめ直すことを主旨として開催した。
日本の戸籍制度は諸外国の住民登録制度とは大きく異なり、日本国籍者を「戸」単位で登録し、系譜としての「家」の記録ともなってきた。この制度は、被差別部落や旧植民地出身者などの特定のマイノリティ集団や先住民の差別と排除に加担してきたと言える。また、戸籍に関連した規範や法律には、今でも旧民法下の「家制度」の影が色濃く残っている。戸籍制度が作られた目的、果たしてきた役割、どのように維持され、どのような問題をもたらしてきたのか、それぞれの講師の方から貴重なお話を伺うことができた。
各回の日程とタイトル
第1回「戸籍から個籍へ、そして人権侵害を起こさない仕組みへ」講師:二宮周平さん
第2回「日本の植民地支配と戸籍—『民族』と『血統』とは」講師:遠藤正敬さん
第3回「なぜ韓国社会は戸籍制度を廃止したのか 被植民地秩序、家父長制解体をめざす市民の連帯から学ぶ」講師:梁・永山聡子さん
第4回「日本の無戸籍者」講師:井戸まさえさん
第5回「選択的夫婦別姓はなぜ40年も阻まれているのか。当事者の声とバックラッシュ」講師:井田奈穂さん
第6回「戸籍とマイナンバー制度—国は何を考えているのか」講師:遠藤正敬さん
第7回「ラップアップ『私はこう思う』受講者によるフリートーク」
参加者の声
「今でも『結婚すること=入籍』、あるいは結婚式・お葬式の際には、『〇〇家』という言い方になってしまう。40年前には、そういった雰囲気は変わると思っていたし、夫婦別姓も早々に導入されるだろうと思っていた。以降、ずっとバックラッシュなどがあり、逆行する形で時間が経過してしまったことが残念でならない。」
「婚姻制度に関心があって、戸籍について違和感を覚えたのも婚姻制度について考えていたことがきっかけ。この講座で、様々な観点から戸籍について考えられたのは、自分にとって実りの多い時間だった。個人識別という意味では、マイナンバー制度の議論に期待していた部分もあったが、『マイナンバーを導入しても、戸籍の根本の部分が問われない。家単位での管理や意識は変わっていかない。』という話を聞き、確かにそうだと感じた。個人登録制度のあり方、戸籍制度の問題はそれぞれ別に問うていく必要があるのだと思った。」
「戸籍について普段はそんなに考えることがないが、外国籍の両親を持つ子どもは、たとえ日本で生まれ育っても日本国籍を取得することが困難であるといったケースを見聞きする。あるいは、書類上で個人の尊厳に関わる記載を貫こうとすることで戸籍が作れないという人も身の回りにいる。戸籍とは一体何なのだろうか。学べば学ぶほど、人々を守るためのシステムではなく『支配・管理のためのシステム』なのだと感じた。ただ、韓国で廃止できたように、日本でも何かのタイミングで変わることもあるのかなとも思った。色々な観点からのお話を伺えて勉強になった。」
「(戸籍制度などを通じて)自分が登録・管理されていることに無自覚であるがために、他者の、たとえば外国籍者が登録・管理されることにも違和感を持たないという捉え方になってしまうのではないか。自己の権利意識・人権侵害に無自覚だから、他者のそれにも何も思わなくなってしまうのではないか。」
*この連続講座の講演録を書籍にします。発行は2023年中頃の予定です。