ジュネーブ便り 〜自由権規約委員会第136会期〜

白根 大輔
国際人権シニアアドバイザー

 

 国連自由権規約委員会の第136会期が2022年10月10日から11月4日までスイス、ジュネーブで行われた。コロナ禍により委員会の作業には遅れが出ていたが、感染状況の改善や制限緩和に伴い、会期毎に審査される国の数も以前通りに戻ってきた。この会期では日本の第7回審査に加え、フィリピン、キルギスタン、エチオピア、ニカラグア、ロシアと合計6つの加盟国審査が行われた。
 また、今年前半まで適用されていた市民社会代表者の入館制限もなくなり、市民社会の参加も以前のレベルに戻ってきた。2年以上に渡り委員会、市民社会双方にとって困難な時期が続いたが、概ね順調に終わったと言ってよい会期だった。しかし、委員会や条約機関全体、市民社会参加の今後について懸念となり得ることもあった。

 

審査延期
 今年に入ってから、予定されていた審査が会期直前または開始後に延期されるケースが相次いでいる。例えばロシアの審査は今年3月に予定されていたが、7月に延期、さらに7月会期が始まった直後に10月への延期が決まった。その発表は審査参加のために市民社会代表者が既にジュネーブ入りした後だった。スリランカの審査は7月に予定されていたが、会期直前(市民社会報告書締め切りが過ぎて以降)に10月への延期が決定、その後8月にはさらに無期延期が発表され、10月後半になって改めて2023年3月会期の審査が決定された。
 このような延期は審査プロセスを間延びさせるだけでなく、審査参加のために限られた資源・時間の中で準備を進める市民社会組織にとっては効果的な参加の大きな妨げとなる。審査延期の理由やその決定プロセスは公表されていないが、当該国政府からの要請がなければ下されない決断である。
 コロナ禍をはじめ、やむを得ない理由があっての委員会の決断だろうが、一度決定された審査を政府の要請に応じて延期することが慣行になると、自由権規約委員会だけでなく、条約機関システムの弱体化につながってしまう。これを避けるためには、どのような場合に政府は延期を要請できるのか、どのようなプロセスで延期が決定されるのかなど、明確な基準や条件が設定される必要があるだろう。

 

締約国欠席審査
 これまで締約国が不在・欠席する形で行われた審査は例外的に何度かあったが、136会期では審査された6カ国のうち2カ国、ニカラグアとロシアの審査が締約国不在の中で行われることとなった。前述の通り、ロシア審査は政府からの要請による度重なる延期が続いた中で欠席審査となった。ニカラグアは2019年に定期報告書が提出されて以降、政府からの応答が途切れ、また他の条約機関(社会権規約委員会、拷問禁止委員会、人種差別撤廃委員会)審査においても欠席が続いている状況で、自由権規約委員会も欠席審査という決断を下した。審査延期同様、締約国欠席という形での審査も本来あくまで例外的なもので、今回行われた2カ国の状況を考えるとやむを得ない判断とも言える。市民社会側にとってもいつになるか分からない審査を待ち続けるより、政府代表不在とはいえ、審査・勧告が行われることで次に進める。政府側の意向で審査プロセスが遅れたり、審査自体が長年行われないということはもちろん避けるべきだ。
 ただ加盟国が加盟国としての根本的な義務、責任を平気で無視する、無視できる状況はさらに危険だろう。今回欠席審査が行われた2カ国の政府が今後どのような姿勢を取るかはまだ分からない。当面、勧告を無視する可能性も大いにあり得る。このような国・政府に対し、どのように対応していくのかは委員会だけでなく、むしろその他の機関を含めた、国連全体、国際社会全体の課題かもしれない。