私たちの生活で出るごみは、ごみ清掃の仕事をしている清掃作業員がせっせと片づけ、運び、処理している。でもごみのことを清掃作業員だけにまかせて「自分の家の中がきれいになればそれでいい、あとは知らないよ」で済まされていないだろうか。 コロナ禍で、ごみ清掃のことに「エッセンシャルワーク」の一つとして少しばかりスポットライトが当てられたこともあり、感謝の手紙や貼り紙がごみ袋に貼られることもあった。生活の周りや地球環境を考えて、ごみ問題に関心を寄せる人も増えてはいる。それでも、まだまだごみ清掃の仕事について多くの人は知らない。ましてそこで働く清掃労働者の気持ちや労働条件などに思いをはせる人は少ないだろう。 一方でごみ清掃を軽視したり、差別的な目で見下したりする例もなくなっていない。環境意識が以前に比べれば高まってきたとはいえ、清掃に対する差別も決して過去のものではないのだ。
私が東京23区のごみ収集の仕事についたのは1972年。22歳で入り、44年間に渡ってごみ収集作業員として活動してきた。6年前に再任用も終了して現在72歳になるが、現場労働者として身体を鍛えてきたおかげで、今も元気に動き回ることができている。この仕事に就いて本当に良かったと感謝している。 その私が44年間の清掃作業員生活の中で経験してきたこと、考えたこと、ごみ清掃と社会との関わり、差別のこと、世界の清掃労働者との交流などを精一杯まとめた本がこの『ごみ清掃のお仕事』だ。
解放出版社が「シリーズお仕事探検隊」の第1弾として『屠畜のお仕事』を昨年春に刊行した。その第2弾として私にお話が来て『ごみ清掃のお仕事』の刊行となった。『屠畜のお仕事』は、全芝浦屠場労組の元委員長の栃木裕さんが、牛や豚を解体処理する屠畜のすべてを語っている。 このシリーズは大事な仕事なのに内容がよく知られていない職業について、小中学生にも理解してもらうことをコンセプトにしている。仕事の内容だけでなく、社会とのかかわりや職業差別にもしっかり触れて、一緒に考えてもらうように努めた。
私がごみ収集の仕事についたのはちょうど50年前。ごみ清掃の仕事が大きく変わる時期だった。人力中心の仕事から清掃車による収集になり、安全への配慮がほとんどない中で事故も多発し、仕事中に亡くなる仲間も次々とでた。差別もひどかった。でもどちらかと言えば、そうした差別に対抗せずに下を向く姿が職場をおおっていた。 若者だった私たちから声をあげ、安全な作業を確立し、清掃の仕事の社会的地位を上げ、差別と闘うために、長い年月をかけて多くの人が取り組んできた。この本で私が特に強調したいのもそこだ。
私はこの本を子どもから大人まで幅広い世代に読んでもらいたいと思っているし、さらにごみ清掃で働く全国の清掃労働者や、欲を言えば世界の清掃労働者にも読んでもらって、私たちの長い闘いや苦労や喜びをお伝えし、共に肩を組んでいきたいと思っている。 正しく知ることが偏見を打ち砕き、差別のない明るい社会を創る。ごみ清掃について、本書が少しでもみなさんのお役に立てるなら、こんなにうれしいことはない。