ジュネーブ便り —マイノリティ問題に関する アジア太平洋地域フォーラム2022

波多野綾子

国際人権上級アドバイザー

 

2022年6月14〜15日、「マイノリティ権利宣言30周年アジア太平洋地域フォーラム」が開催された。マイノリティ問題に関する地域フォーラムは、2019年より、マイノリティ問題に関するフェルナンド・ドゥ・ヴァレンヌ国連特別報告者の発案と招集に応じ、トム・ラントス研究所を主催団体として、各地域の国、機構、市民社会などと協力しつつ毎年開催されている。IMADRも特にアジア太平洋地域のフォーラムにおいて、例年協力・参加を行ってきた。4年目となる本年は、「民族的または種族的、宗教的および言語的少数者に属する者の権利に関する宣言(マイノリティ権利宣言)」が1992年に国連総会で採択されてから30年、同宣言に関する規範の枠組み、実施を促進する制度やメカニズム、規範形成や規範遵守におけるマイノリティ参加の効果に焦点を当て、マイノリティ権利宣言の批判的評価を行い、マイノリティの権利の認識・保護・促進を「見直し、再考し、改革」するための具体的な提言を行うことを目的として開催された。2022年5月に欧州・中央アジア、6月に本アジア・太平洋のフォーラムが開催された後、9月6日、7日にアフリカ・中東、10月10日、11日に南北アメリカの4つの地域フォーラムが開催される予定である。

同日の「実施 制度、メカニズム、政策、プログラム」に関するセッションでは、IMADRの波多野がモデレーターをつとめた。同セッションにおいては、アフガニスタンの人権活動家でアフガニスタンの女性省の大臣もつとめたサマ・サマル氏、ドルカン・イサ世界ウイグル会議会長、OHCHRコンサルタントのカディジャ・カダール氏が、それぞれアフガニスタン、中国、インドにおけるマイノリティの現状や課題を共有し、その後マレーシアの国内人権機関やインドネシアの市民社会より国内人権機関や国境を超えたビジネスと人権の観点の重要性についてコメントが寄せられた。他方、中国政府系の機関に属する参加者からは、イサ氏の提起したウイグルの人権問題に対する批判的なコメントが集中的に寄せられた。国連の基本的価値観と原則に基づき、罵るような言動、軽蔑的または扇動的な発言は慎むことを確認しながら議論が行われたが、改めて、マイノリティの声を確保する場の難しさと重要性が確認されたセッションとなった。スピーカー及び参加者からは、マイノリティの権利宣言が強制力をもたずマイノリティの権利保護と促進の体制はまだ不十分であること、それは特に強力な地域人権機構をもたないアジア大洋州においては非常に問題となること、また、マイノリティの多様性や特に最も見えにくいマイノリティの存在や課題を認識した上での保護及びエンパワメントが必要であることなどが強調された。

新型コロナウィルス感染対策のため、本地域フォーラムは完全にオンラインで行われたが、政府(本年は中国1カ国)、国際機関、市民社会、学術研究者、そしてマイノリティグループから約152名が参加しマイノリティの権利の認識、保護、促進に関する現状の把握とマイノリティの権利保護促進体制におけるギャップの特定、それらがいかにマイノリティとその権利保護に脅威を与えているかの評価などについて活発な議論を行った。また、500人以上が議論の様子をYouTubeで視聴した。また、様々なマイノリティの言語による広報資料が用意され、英語とマレー語の通訳がついた。 地域フォーラムではアジア太平洋地域のマイノリティコミュニティに影響を与える様々な問題が提起され、国際・地域レベルでマイノリティの権利保護・促進枠組みを強化するために、国家、国際機関、市民社会を対象とした54の勧告が出された。これらの洞察及び提言は、2023年3月の国連人権理事会に向けた特別報告者の報告書のテーマ別作業に反映される予定である。さらに、この議論は、2022年12月にジュネーブで開催されるマイノリティ問題フォーラムの作業と勧告に反映されることとなっている。

●はたの あやこ