国際人種差別撤廃デー院内集会『レイシズムを、ゼロに。』の報告
2022年3月17日開催
基調講演
基調講演は「私たち市民社会が目指す『人種差別撤廃法』」というタイトルで、弁護士の師岡康子さん(外国人人権法連絡会)が行った。
師岡さんはまず、法務省の2017年「外国人住民調査報告書」が明らかにした入居差別・就職差別やヘイトスピーチの被害を挙げ、それだけではなく人種差別を理由とした脅迫、放火事件などのヘイトクライムが頻発していることを考えても、人種差別対策の緊急性は非常に高いと訴えた。
また、日本が1995年に加入した人種差別撤廃条約第2条1項の、「締約国は、人種差別を批判し、あらゆる形態の人種差別を撤廃し、すべての人種間の理解を促進する政策を、すべての適当な方法により遅滞なく、遂行する義務を負う。」という条文を強調し、人種差別を撤廃する政策すら存在しない現状は、条約履行のスタートラインにすら立っておらず、20年以上に渡り具体的な取り組みを行なっていないことを指摘した。
2016年のヘイトスピーチ解消法の成立については、「初めての反人種差別法で、前進ではあった」とその意義を評価したが、人種差別全体を撤廃する内容ではなく実効性にも限界があること、従来、日本では法制度構築の際には「基本法」を制定するが、人種差別に関してはそのような整備がないことなどを指摘した。
基調講演を行う師岡さん
日本が整備する必要のある人種差別撤廃法制度として、師岡さんは以下を提示した。
(1)人種差別撤廃法
(2)被害救済規定
(3)国内人権機関
(4)個人通報制度
これらの4つの制度が最低限必要とされるが、いまだに日本ではそのいずれも整備されていない。こうした状況が国際的にどう位置づけられるのかについて、師岡さんは移民統合政策指数(MIPEX)の2020年の評価を紹介した。MIPEXはヨーロッパを中心とした各国の移民統合政策を評価・比較するもので、日本の反差別政策について、100点満点中16点というスコアを与え、次のように評価した。
『不適切。日本の法制度は社会における差別と闘うには不適切である。公正を求める被害者が反差別法も国内人権機関もみつけることができない。日本は反差別政策では最下位の3ヵ国の一つであり韓国、欧州などの国々に後れをとっている。』
また、現在、外国人人権法連絡会が作成中のモデル法案について、人種差別撤廃条約に基づいた差別の定義規定・禁止規定を設け、差別行為を差別的取り扱い・不特定の集団に対する差別的言動・個人に対する差別的言動・ヘイトクライムに類型化していると紹介した。
法案にはその他、多様な文化等に関する情報の発信、ヘイトクライム・ヘイトスピーチ対策、啓発活動、内閣府での人種等差別撤廃委員会の設置なども盛り込まれている。
師岡さんはこのモデル法案について、「緊急の必要があり迅速に実現可能なものという位置づけである」とし、この法案は国際人権基準を全て満たすものではないため、国内人権機関・個人通報制度は別途整備する必要があると留意した。
最後に師岡さんは、「多くの方々と一緒に声をあげたことで、6年前、出発点としてのヘイトスピーチ解消法が成立した。次のステップに向けて皆さんとともに取り組んでいきたい」と結んだ。
リレートーク
髙谷幸さん(移住連)から「移民・難民 市民ではない者への人種差別」と題した報告があった。国連人種差別撤廃委員会の一般的勧告30「市民でない者に対する差別」(2004)に言及し、市民と市民でない者の区別は「人種差別撤廃条約の趣旨・目的に従っていることが前提」であると強調した。そして、入管収容所の実態、国外退去令の運用や外国人に対する生活保護の扱いなどに触れ、こうした現状は一般的勧告30にもとづいて是正されるべき差別であり、容認される区別の範疇を逸脱していると指摘した上で、日本における移民・難民に対する差別を禁止するための法律や取り組みが必要だと語った。
在日コリアンへの差別に関しては、郭辰雄さん(コリアNGOセンター)が発言した。郭さんは冒頭、2022年はサンフランシスコ講和条約から70年であり、在日コリアンが一方的に国籍を剥奪されてから70年が過ぎたと語った。そして1982年の難民条約の国内発効に伴い国籍条項が撤廃されたことで制度的に徐々に改善されてきた点もあるとしながら、いまだに深刻な問題が多いことを強調した。また、頻発するヘイトクライムは当事者への加害行為に留まらず、社会的な差別構造を増幅・拡散し社会を不安定にすると指摘。山積する様ざまな課題の解決の前提として、差別を禁止・撤廃する法制度が必要であると語った。
被差別部落への差別に関しては、近藤登志一さん(部落解放同盟東京都連合会)が登壇。現在、東京高裁に控訴している「全国部落調査」復刻版差し止め事件裁判について報告があった。特に、東京地裁で「差別されない権利」について「権利の内実は不明確」として退けられたことを強調し、原因として、部落差別を明確に禁止する法律がないこと、裁判官が部落差別について十分な理解を持っていないことをあげた。また、国際人権基準に合致した差別禁止法と国内人権機関が必要であると訴えた。
アイヌ民族への差別に関しては、多原良子さん(メノコモシモシ)から報告があった。江戸時代以降、特に苛烈になった同化政策に触れ、いまだに声を上げることができない「サイレント・アイヌ」が数多くいることを強調した。また、2019年に制定されたアイヌ新法について、参議院の付帯決議では差別を根絶するための措置が必要だと言及され、期待したが、現在もヘイトスピーチの被害が相次いでいると語った。先住民族の存在自体を否定する言説もあると語り、政府に対して法律に基づいた実効性のある措置をとることを求めた。
琉球への差別に関しては、親川裕子さん(沖縄国際人権法研究会)が登壇。国連からの度重なる勧告にも関わらず、人種差別撤廃法が一向に制定されないまま、被害者の救済がなされない現状に懸念を示した。また、近年はネット上のヘイトスピーチが顕著で、新基地建設に抗議する人びとに対しての侮蔑的な発言も相次いでいると語った。立法事実もない中で成立した土地規制法を引き合いに出し、立法事実が多くある人種差別撤廃法の法制化の方が急務であると訴えた。2022年は沖縄の「本土復帰」50年であることにも触れ、日米合作の構造的差別が現存していることを改めて強調。人種差別の撤廃を求める活動に連帯を示すと語った。
韓国からの報告
イ・ジンへ弁護士(移民センター”チング”)からは、韓国における差別禁止法制定の動きについて報告があった。
差別禁止法の目的は「政治的・経済的・社会的・文化的、あらゆる領域での差別を禁止し、被害者を救済することで憲法上の平等権を保護し、人間としての尊厳と価値を実現する」ものであり、具体的には「国及び地方自治体等の差別是正義務」「差別禁止及び予防措置」「差別による被害の救済措置」「罰則」からなると語った。
また、差別禁止法の制定に向けた韓国国内での運動について、24時間シットインや木曜デモ、そして制定を求める行進など、市民レベルでの様ざまな取り組みがあると報告した。
連帯を通して差別と闘っていく
最後にRAIKの佐藤信行さんが閉会の挨拶をした。1995年に日本が人種差別撤廃条約に加入して以降、多くの人権NGOが人種差別撤廃法の制定を訴え続けてきたと語った。また、2021年に在日コリアン女性グループが実施した調査に触れ、72%の回答者が、「子どもが在日コリアンのルーツを持つために差別の被害を受けることが心配だ」と答え、75%の回答者が「子どもが人種差別の被害を受けたときに相談できる学校の先生がいない」と答えたことに大きなショックを受けたと話した。この現状を変えるために、国際人権法を活用しながら様ざまな人びとと連帯して差別と闘っていくとしめくくった。
*参加者は一般130人、国会議員12人。
(報告:IMADR事務局)