映画の紹介『海辺の彼女たち』

映画を通して彼女たちの痛みを共有し、生を想う

 

脚本/監督/編集:藤元明緒
2020年製作/88分/G/日本・ベトナム合作

 

藤元 明緒

映画作家

 

物語の内容に大きくふれるので、映画を作ったきっかけなど企画意図のような話題はこれまでオープンな場では避けてきたが、公開からしばらく経ったし、この機会に少しネタバレ覚悟で書いておこうと思う。映画や登場する人物に関心を持ってもらえたら幸いである。
日本で暮らす若いベトナム人女性たちを描いた映画『海辺の彼女たち』は元々、日本で亡くなった外国人労働者の子たちの命についてスクリーンを通して追悼する事をモチベーションとして企画が始まった。
物語の構想を始めたのは2018年の夏。既に日本では海外からの移住労働者を多く受け入れていて、その中でも妊娠した女性の方が家族を支えるためであったり、渡航に関する借金を返すためなど、様々な理由から日本で働き続けようと、中絶を選択したり産んだ子を遺棄した事などを報道やSNSを通じて少なからず耳にしていた時期であった。国籍は主にミャンマー、ベトナム、中国だった。
技能実習生ではないが、私の妻も映画の主人公の設定と同じく家族を支えるために来日していた過去があり、ちょうど妊娠していて命について深く考えていた時期だったので、耳にした色々な話にシンパシーを感じて心を揺さぶられた。
なぜそんなことが起きるのか。
一体誰が彼女たちにそのような決断をさせたのか。
失った命や僕らが今何を犠牲にして生きているのか、その痛みの記憶を映画として残したい。
そんな想いを巡らせながら『海辺の彼女たち』の制作が始まった。
映画に登場する、技能実習先を抜け出して正規滞在の資格を失った彼女たちのような存在は、日常の中で接する機会は多くの人にとって少ないかもしれない。しかし、映画であれば出会いの疑似体験ができる。救いがなさすぎる、暗い、と公開当初から言われ続けてきたが、観客と彼女たちが出会うこと自体が救いになるような構造になっている。
映画からどのようなメッセージを受け取れるのか、技能実習生たちをとりまく社会において何が問題となっているのか、どう解釈するのかは観客の自由だ。(作り手も明確な提示は避けている。)
人によっては主人公たちを「犯罪者」と認識するかもしれない。
ただ、願わくば映画を鑑賞するという行為が、多種多様な事情で日本に生きている方たちへの想像力を育む体験となってほしい。そして、その力が少しでも優しい世界になっていく事に繋がればと思う。それが芸術に出来ることだと信じている。

●ふじもと あきお

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