ジュネーブ便り スリランカの紅茶農園のマイノリティ女性たち

小松 泰介

IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

 

2021年11月26日から12月3日にかけて、現代的形態の奴隷制に関する国連特別報告者である小保方智也さんがスリランカを公式訪問した。公式訪問最終日の記者会見で小保方特別報告者は、スリランカにおける労働搾取が様ざまな事由に基づく差別と結びついていることを指摘した。
中でもスリランカの紅茶農園で働く女性たちが置かれている状況は、まさに差別が労働問題と結びついていることを示している。彼女たちはイギリス植民地時代に紅茶やゴム、コーヒー豆の大規模農園の労働力としてインド南部から連れてこられたタミル人の子孫で、植民地時代以前からスリランカに暮らしていたタミル人と区別して「内陸タミル人」や「インド系タミル人」と呼ばれる民族マイノリティである。大半は今も紅茶農園で働いており、農園の敷地内にある植民地時代に建てられた長屋で暮らしている。電気やトイレ、水道も不十分な約3メートル四方の長屋に5人から10人が暮らしている様子を目の当たりにした特別報告者は深い懸念を表明している。
彼女たちが直面する困難はジェンダーに基づく差別とも深く結びついている。紅茶農園での男性たちの仕事は肉体労働から現場監督、管理職と幅がある一方で、女性たちの仕事は茶摘みのような低技能、低賃金の肉体労働に集中している。彼女たちは最低賃金を稼ぐために男性たちの倍の労働時間が必要だと、特別報告者は指摘している。スリランカでは、根強く残る家父長制により労働組合などコミュニティの意思決定プロセスは主に男性で構成され、女性たちの参加は限られてきた。農園での仕事と家事の負担が一方的にのしかかっていることもこれに拍車をかけており、労働時間や育児、セクシャルハラスメントといった問題が後回しにされている。
このような厳しい生活のために縫製工や家事労働者として農園の外に職を求める女性たちもいる。マイノリティ問題に関するリタ・イザック・ンディアエ元国連特別報告者は、海外で家事労働者として働くスリランカ人女性の多くは内陸タミル人であると公式訪問報告書で指摘している。また国内でも、家事労働者として働いていた農園出身の16歳の少女が火傷によって死亡し、検視によって性的虐待を繰り返し受けていたことが2021年7月に報道された。これは児童労働、ジェンダーに基づく暴力、そして構造的差別が重なり合っていることを象徴する事件であり、また農園の女性たちがコミュニティの中でも外でも差別に晒される現実の一端を示すものでもある。
小保方特別報告者は、スリランカに根深く残るカースト差別と労働の問題にも言及している。スリランカでは近隣の南アジア諸国と比べてカーストについてオープンに語られてこなかったが、インドから移住した内陸タミル人の先祖の多くはダリットであったと言われている。このことは紅茶農園の女性たちが抱える困難に民族、ジェンダー、そしてカーストに基づく差別が複雑に絡み合っていることを意味している。小保方特別報告者は2022年9月の国連人権理事会で公式訪問報告書を発表する予定だが、スリランカ政府が彼の勧告をどのように受け止めるのか、そしてどのように改善に取り組むのか注視したい。

●こまつ たいすけ