ダーバン会議の意義と成果
今日は、ダーバン会議20年の集会にお招きくださりありがとうございます。私が人種差別に関する国連特別報告者を務めた6年間において、日本公式訪問(2005年)はもっとも印象深く、多くのことを知りました。
国連はそれまで2回、反レイシズムの世界会議を開催してきました。レイシズムは非常に根深い問題であり、2001年のダーバンでの3回目の会議でようやく大きな進歩を遂げることができました。その成果の一つは、途中でイスラエルとアメリカがボイコットをしたものの、会議にはすべての国連加盟国が参加しダーバン宣言と行動計画を全会一致で承認しました。それは非常に画期的なことでした。次に、ダーバン会議開催に至るまでに、世界のすべての大陸で準備会合が開かれました。それを通して、レイシズムの現状と全体像の把握が試みられました。また政府と市民組織が協力して準備を進めたという点も重要です。第三に、ダーバン会議ではレイシズムと闘ううえでの価値や基本原則を明らかにしたダーバン宣言と行動計画が採択されました。宣言はすべての人に道義的にも倫理的にもレイシズムと闘うことを求めています。行動計画はレイシズムのあらゆる側面を厳密に定義し、それと闘うための法律、社会、経済そして教育における方策を明らかにしています。
20年後の現在の課題
ではダーバンから20年、今私たちが直面する課題は何でしょう?第一に、そして私が最も強調したいのは、ダーバン行動計画の実施です。国連加盟国は全会一致で採択した文書のもと、道義的にも法的にもレイシズムと闘う義務があり、これらを国内法に統合させ、実施する義務があります。
なぜ実施が必要なのか?それは2021年のこの時代において、レイシズムがローカライズされているからです。世界各地でレイシズムは一番の「悪」となり、すべての社会が闘うべきものとなりました。私たちの社会は多元的で多文化的です。どの社会にも、異なるアイデンティティや歴史を背景に持つコミュニティが存在し、同じ場所に暮らしています。そのような社会ではレイシズムによる偏見が歴史的文脈のなかで現代的な形で現れます。
行動計画を実施するためには人びとの啓発と意識化が必要です。そのためには世界各地の市民社会が繋がり、連帯して次の行動をとることが求められます。まず、レイシズムが社会のどこに存在しているのかを特定し記録すること。そして、市民社会として政府に働きかけること。政府に対して、レイシズムを悪として認識し、実効性をもって行動計画を実施しなくてはならないと唱え続けること。それがグローバル化した多文化社会の中で私たちがレイシズムと闘う手段です。
ではダーバン会議の一員として日本政府は何ができるのか。行動計画は国際的な視点に立つものですが、これを国内の政策に反映させること。これが政府に求められている中心的課題です。そして、IMADRやERDネットなどレイシズムと闘う日本の市民社会組織やコミュニティに必要な資源や手段を提供すること。さらにダーバン会議の世界的なメカニズムに政府が積極的に参加することです。
レイシズムと闘うよう政府をどのように説得していくのか。それは近隣諸国との関係改善に繋がるアピールをすることです。そのためには、まず国内のマイノリティに対する差別をなくしていかなくてはなりません。日本がレイシズムと闘うためには、多文化で平和な社会になるためには、それが鍵となります。その上で、歴史的にも地理的にも隣接している近隣諸国との関係を強化していく。これは道義的、倫理的に求められ、法的に義務付けられているだけではなく、外交手段として政治的利益につながります。
日本のアイデンティティは多元的であり、マイノリティのアイデンティティを包摂できる余地が十分あることを認識すべきです。たくさんの糸が折りこまれたタペストリーのように、さまざまな糸の一つひとつが表面にでてくるようになれば、日本の社会はダイナミックなものに変わっていくでしょう。
集会でのスピーチをIMADR事務局が抄訳