『燃え上がる記者たち』報道現場のダリット女性たち

ミーナ・ヴァルマ

国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)事務局長

 

2002年、インドのウッタル・プラデーシュ州の女性たちが新聞を創刊した。彼女たちはそれをKhabar Lahariya(ニュースの波、以下KL)と名付けた。ドキュメンタリー映画『燃え上がる記者たち』(Writing with Fire)は彼女たちの物語である。新聞はダリットの女性たちが運営しており、チーフレポーターのミーラがチームを率いている。彼女たちは、スマートフォンだけを武器に取材を行い、社会の最前線だけではなく、家の中の伝統を打ち破ろうとしている。
創刊から20年、今、KLはFacebookやYouTubeチャンネルで1千万回再生されるまでに成長した。
ウッタル・プラデーシュ州を舞台にしたこのドキュメンタリーは、貧困、カーストそしてジェンダーが交差するところで女性たちが直面する問題に光を当てているが、究極的には、権力者に責任を取らせようとする彼女たちの勇気ある行動を描いた明るい内容となっている。
Rintu ThomasとSushmit Ghoshが3年かけて撮影したドキュメンタリーのデビュー作であり、多くの逆境や偏見、さらには夫や夫の家族からの抵抗にあいながらも、真実を求めて前に進む勇敢なレポーターたちの姿を描いている。
チーフレポーターのミーラは幼い頃に結婚したが、義理の親から学校に通うことを「許可」された。今、彼女は大胆不敵で誰も止めることのできない女たちのチームを率いている。一方、ミーラの夫は彼女が失敗することを望んでいるようだ。この映画には他にも2人の女性、スニータとシャムカリが登場する。彼女たちもまた、ジェンダーやカーストによる偏見、差別、蔑視に直面している。スニータは、家族から結婚を急かされている。仕事を辞めたくないという理由で、シャムカリは夫から虐待を受けている。このような状況にあるからこそ、彼女たちは、自分たちのストーリーやそこに登場する人びとを正当に評価し、権力に事実を伝えるために、強い決意と粘り強さを持つことができる。
紙媒体からデジタルメディアへの移行、それってどういう意味?スマートフォンの使い方がわからない!電気のない家でどうやって充電するの?などなど、彼女たちが直面する挑戦は多岐にわたる。それでも彼女たちは、「採掘マフィア」が経営する危険な鉱山や、ダリット女性が全国各地でレイプ被害にあっている状況をはじめ多様なストーリーをとりあげる。また、地方選挙など国家的な意味を持つ重要な話題にも尻込みすることなく現場に押しかける。真実を追求するためには警察や政府の役人だって苦しめる。
映画は、観客が自分たちの生活や文化の中で受け入れている構造的な不公平に気づき、問い直し、そして何をすべきかを考えるよう促している。主人公であるダリット女性たちは、IDSNに集まる多くのダリットの人権擁護者たちと同様に、驚くべき行動力と勇気を備えている。昨年、オスカーの長編ドキュメンタリー映画の最終選考に残ったこの作品が、相応の称賛を受けることを願っている。

 

Khabar Lahariya について同Facebookより)

KLは、国内で唯一、女性が運営する農村のデジタルニュースである。複数のデジタル・プラットフォームを通じて、月300万人に情報を発信している。KLは、ウッタル・プラデーシュ州の8つの地区に24人の女性レポーターを持っている。KLが支持されるのは、地方自治の問題を報道し、農村の貧困層のための政府の事業を監視し、農村開発のための公的資金の流れを追跡していることにある。メディアが注目しない地域のウォッチ・ドッグとして、また弱者の武器として活躍している。KLのユニークさは、そのジャーナリスト(全員が、ダリット、先住民、ムスリム、後進カースト出身の女性たち)だけではなく、ジャーナリズムにもある。KLは、インドの農村部からの「リアル」な報道で知られている。メディアがとりあげない農村の人びとの日常的なストーリーを追っている。KLは、政治に説明責任を果たさせるための手段でもある。地元の官僚や政治家による怠慢あるいは実行をデジタル、印刷、オーディオを通して明らかにすることで、農村開発に関する政府の公約と現場における現実の間の大きな隔たりを明らかにしている。

 

(翻訳:IMADR事務局)