IMADR事務局
10月1日、「グローバル経済を支える奴隷労働―移住の側面から-」をテーマに第30回ヒューマンライツセミナーをオンラインで開催した。ゲストには2020年に「現代的形態の奴隷制に関する国連特別報告者」に任命された小保方智也さん(英キール大学教授)、技能実習生の問題に詳しい旗手明さん(自由人権協会理事)、そしてビジネスと人権に関するアドボカシー活動に取り組む弁護士の佐藤暁子さん(ビジネスと人権リソースセンター日本リサーチャー・代表)をお迎えした。
小保方さんはまず、国連における特別手続き、特に国連特別報告者の役割を紹介し、自らのマンデート(任務)である現代的形態の奴隷制について解説した。
現代的形態の奴隷制には強制労働、債務労働、児童労働、性的搾取、強制婚などが含まれ、ほとんどの国で法律上は禁止されているにもかかわらず、発展途上国および先進国においても今なお見られるという。移民や女性、児童や若者、マイノリティがその犠牲になることが多い。
全世界に移民労働者は1億7000万人近くいると言われており、その中には就労許可を取得して合法的に海外で働いている人や人身取引の被害者などさまざまな人がいる。迫害や深刻な人権侵害のために他国に避難を強いられた難民や庇護希望者も、避難先で生活のために働いている場合もある。中でも正規の就労ビザを持たない人びとは、逮捕や強制送還を恐れて警察や入管に助けを求められないため、奴隷労働の犠牲になるリスクが高いという。また移民労働者は雇用契約や社会保障がない非公式部門で働く確率が非常に高く、雇用主に利用され強制労働の犠牲になる確率が高い。
強制労働がよく見られるのは農業、漁業、製造業、縫製業、建設業、ケータリング業などで、アジア圏では例えば、タイやインドネシアでは移民が漁業で、カンボジアやバングラデシュでは女性や児童が縫製業で低賃金での長時間労働を強いられている。小保方さんはこのような業界には多くの日本企業も関わっているので、デューデリジェンス(人権に対して正当な注意を払うこと)を強化する必要があると述べた。
そのために、政府は独立した人権救済の窓口を地域レベルで設置し、労働の権利に関する正確な情報や通訳のサービスを提供するなどして被害者を救済・保護すること、そして移民を利用、犠牲にする企業や組織犯罪グループなどを適切に処罰することで現代的形態の奴隷制を防ぐ義務があると述べた。最後に政府や企業の行動をより効果的に監視・勧告するためにNGO、労働組合や研究機関からの情報提供を呼びかけた。
次に旗手明さんが技能実習制度について報告した。技能実習生はすでに40万人を超え、日本で働いている外国人の中では最も数が多い。技能実習制度にはさまざまな問題があるが、特に来日するために多額の借金を負わざるをえないような仕組みであること、転職の自由がないことは強制労働の特徴でもあり、技能実習制度の仕組み自体に問題があると述べた。日本の政策は、労働者を労働力としてのみ受け入れ、定住しないように循環させ、新しい労働者を受け入れ続けるというものだが、送り出し国の経済発展や日本国内の賃金水準が下がり続けていることなどから日本は魅力が薄れてきており、日本の外国人労働政策は持続可能ではないと警鐘を鳴らした。
最後に佐藤暁子さんが、近年は企業が時に国家よりも大きな影響力を持つようになり、人権課題について企業の責任を重視する世界的潮流が生まれたこと、特にサプライチェーン上の人権侵害に対して厳しい目が企業に向けられている状況を紹介した。そして国連のビジネスと人権に関する指導原則に基づき、各国が国内行動計画を策定しており、グローバル社会においてはビジネスと人権に関する取り組みの優劣が経済的競争力を左右する状況にあると述べた。さらに、例えばNGOなどによる「Know The Chain」というイニシアチブがサプライチェーン上の人権リスクを調査、評価したり、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する投資家が増えたことなどから人権リスクは経営上のリスクに繋がる状況になっており、日本企業としても人権に対する取り組みを強化する必要があると解説した。