小松 泰介
IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所
2021年6月24日、国連人種差別撤廃委員会の半数である9人の委員を改選する選挙がニューヨークの国連本部で行われた。委員会選挙では、「締約国」と呼ばれる人種差別撤廃条約を批准している国が、任意で自国から候補者を擁立することが条約で定められており、今回はアメリカ合衆国、アルジェリア、カメルーン、韓国、コートジボワール、トーゴ、トルコ、ハンガリー、ブルキナファソ、ポーランド、モーリシャスから11人の候補者が擁立された。反差別国際運動(IMADR)は国際人権NGOのマイノリティ・ライツ・グループ(MRG)と人種と平等(Race and Equality)と共同で志望動機や反人種差別の分野における経験などに関する質問票を候補者に送り、回答を特設ウェブサイトに掲載すると共にニューヨークとジュネーブの各国政府代表部に送付した。これは簡単な履歴書の提出だけが求められている現行のプロセスにおいて、候補者に関する情報と選挙プロセスの透明性の向上を図ることを目的とした取り組みである。当日の選挙では182の締約国のうち178ヵ国が投票し、得票数が最も少なかったハンガリーとブルキナファソの候補者が落選した。
地域バランスの課題
今回の選挙では、2019年の前回選挙に続いて委員会の男女比を半々とするジェンダー・パリティに繋がる結果となったが、課題も残された。国連ではアフリカ、アジア太平洋、東ヨーロッパ、ラテンアメリカ・カリブ海、西ヨーロッパその他という5つの地域グループに分けるのが慣例だが、委員会での比率は均等なものとなっていない。2021年時点ではアフリカが全体の33%、アジア太平洋が22%、東ヨーロッパが6%、ラテンアメリカ・カリブ海が17%、西ヨーロッパその他が22%である。しかし、今回の選挙でラテンアメリカ・カリブ海諸国から一人も候補者が出されなかった一方で、候補者の11人中6人はアフリカの国から擁立されていた。その結果、2022年からの委員会の地域構成はそれぞれ44%、17%、6%、11%、22%となり、地域バランスがさらに偏ることになった。国や地域によってそれぞれ異なる人種差別の状況を取り扱う委員会において、各地域からの専門家が均等に配置されることは国際的な人権機関として重要であり、実際に条約の8条も地域バランスを考慮するよう締約国に求めている。
残念なことに、今年の候補者の数は過去10年間で最も少なかった。2011年は16人、2013年は17名、2015年は13人、2017年は16人、2019年は16人の候補者が擁立されていた。候補者が少ないということはそれだけ競争率が低くなるということであり、豊富な人材プールが確保されないということである。今年の候補者が一段と少なかった理由ははっきりしないが、将来の選挙では各地域、特に委員の数が少ない東ヨーロッパとラテンアメリカ・カリブ海諸国から積極的に候補者が擁立されることが期待される。
求められる透明な国内選考プロセス
また、国内における候補者の選出方法にも課題が残されている。ほとんどの締約国は基本的に閉じたプロセスで候補者を選んでいるのが現状であるが、これに対し透明性が担保された能力ベースの選出方法にすべきだという声が近年高まっている。例えば、イギリスは普遍的定期審査(UPR)でおよそ100ヵ国にそのような選考プロセスを採用するよう勧告し、日本を含め勧告を受けた過半数の国がこれを受け入れている。また、国連事務総長も国内において競争もしくは独立した審査を通した選出プロセスを各国が採用するよう勧告している。IMADRが立ち上げメンバーとして加わっている国連条約機関NGOネットワーク(TB-Net)をはじめとする市民社会もこのようなプロセスを支持している。
これらの課題を締約国と共有するため、IMADRは質問票に取り組んだ2団体と共同声明を作成し、各国政府代表部に送付した。2023年に控えた次の選挙での改善が期待される。