宮下 萌
反差別国際運動特別研究員
2021年5月26日、院内集会「ヘイトスピーチ解消法から5年─差別禁止法の現段階」が外国人人権法連絡会、人種差別撤廃NGOネットワークなど5団体により開催された。
2016年は「ヘイトスピーチ解消法」だけではなく、「障害者差別解消法」「部落差別解消推進法」の「差別解消三法」が施行された年であった。また、2019年には「アイヌ施策推進法」も施行されたが、日本には未だに国連から勧告されているような包括的差別禁止法は存在しない。本院内集会では、この4法を基にそれぞれの課題についてお話頂いた。また、今国会において「入管法改正案」が事実上廃案になったことを受け、この間の入管法改悪反対運動に携わったNGOからの報告もなされた。日本には、在日コリアンを含む外国人、被差別部落民、障害者、アイヌ民族、琉球の人びと、女性、性的マイノリティなど、多様なマイノリティに対する差別が存在するが、未だに差別撤廃の法制度が整っているとは言い難い。本院内集会ではこの5年間を振り返り、求められる国際人権基準に則った法制度を改めて考える機会となった。
現場からの報告
まず、障害者差別について、DPI女性障害者ネットワーク/障害者欠格条項をなくす会の臼井久美子さんにお話頂いた。障害者差別解消法には、障害を理由とする差別の解消を推進し、障害の有無によって分け隔てられない共生社会をつくる目的等が前文で明記されていること、また国及び地方公共団体等には「合理的配慮」の提供が義務付けられたことなどの特色がある。しかし、障害者差別と性差別に別々に取り組むだけではこぼれ落ちてしまう「複合差別」に焦点を当てた取組みが必要であること、差別の定義を明確化することが必要であることなどの課題も多く残されている*。
山口県人権啓発センターの川口泰司さんからは、部落差別についてお話頂いた。部落差別解消推進法は、「現在もなお部落差別が存在する」と国が認めたこと、「部落差別は許されない」との規範を示したこと及び「部落差別解消に関する施策の実施」の行政責任を示したことに意義が認められる。しかし、ネット上での深刻な部落差別について対策は追いついていない。部落差別の禁止を明記すること、審議会の設置や基本方針、基本計画の策定が必要であることなど、部落差別解消推進法の法改正の必要であり、本来的には包括的差別禁止法と人権救済機関が求められる。
メノコモシモシの多原良子さんからは、アイヌ施策推進法についてお話頂いた。アイヌ施策推進法には、アイヌの人に対する差別することを禁止した条項が明記された。また、アイヌの人びとの課題解決のため、国有林野における林産物の採取に関する特例や、アイヌの伝統的儀式・漁法の伝承等のためのサケの採捕への一定の配慮を示した。しかし、今もなおアイヌ民族の差別は存在し、先住民族の権利については国際水準から大きく後れをとっており、改善を図る必要がある。
移住者と連帯する全国ネットワークの安藤真起子さんからは、今国会での入管法改悪反対国会前シットインをはじめとするこの間の運動について、廃案に至るプロセスは「一人ひとりが声をあげれば、社会を変えることができるという希望を感じさせるものであった」と力強く話された。
最後に、外国人人権法連絡会の師岡康子さんが、この5年間を振り返り、ヘイトスピーチ解消法の現状と課題について報告した。確かに同法は「ヘイトスピーチは許されない」という反差別の立場にたった、日本で初めての人種差別をなくすための法律である。しかし、同法には禁止規定、制裁規定がなく解消法だけではヘイトスピーチを止められないことは明らかである。包括的な人種差別撤廃政策を策定し、その法的根拠として人種差別撤廃基本法を制定すべきである。
日本には、差別事由ごとに差別撤廃法整備が進みつつあるが、国際人権基準からはいずれも遠い。本来は包括的な差別禁止法が必要であり、市民社会一人ひとりの声が法制定の動きに繋がることを改めて感じた集会であった。
*本院内集会後の2021年5月28日に障害者差別解消法改正法が成立し、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化された。(施行は公布の6月4日から3年以内の政令で定める日から)