ロマとCOVID-19パンデミック

ドイツ・スィンティ・ロマ中央委員会

ヨーロッパでCOVID-19のパンデミックにより最も大きな影響を受けたのは、全土において社会の隅に追いやられているスィンティとロマのコミュニティである。彼らに対する反ジプシー主義はレイシズムの一つの形態であり、それがもたらす差別や社会的排除がパンデミックの影響に大きく起因している。スィンティとロマの多くは、居住地として認められていない場所にある密集住宅で、水道や電気の利用も制限された生活を送っている。社会から排除されているために、感染予防のルールに従うことができない人も多数いる。劣悪な生活環境と不十分な医療へのアクセスにより、多くのロマは普段より健康状態が悪く、ウイルスに感染しやすい。

パンデミックはどのように影響したか
さらに、中央ヨーロッパや南東ヨーロッパでは、多くのロマは不安定で非公式な自営の仕事に就いており、パンデミックの間、仕事の機会を失った。パンデミック以前は、ルーマニア、ブルガリアそしてスロバキアのロマの多くは、西ヨーロッパに移動し常雇いや臨時雇いの仕事についていた。パンデミックにより、その多くは仕事を失い、やむなく故郷の貧しい居住区に戻り、何とか別の収入源を見つけて家族を養わなければならなかった。
セルビアを含む他の国のロマは、西ヨーロッパに定期的に行き、そこで商品を買い付けて自国にもって帰って売るという商売をしていた。また、西バルカンのロマは、90日以内の滞在はビザ不要であることを利用してEU加盟国で短期の就労についていた。パンデミック下の渡航制限により、これらの収入源は断たれたため、影響をうけた家族たちは新たな収入源を見つけなくてはならなかった。
パンデミックではロマの子どもたちも影響をうけた。休校のために家での学習を余儀なくされたが、電気が十分に通っていなかったり、ノートパソコンやスマートフォンなどの通信機器がなかったり、過密な住環境で学習に集中できなかったため、多くの子どもたちはリモートの学習に参加できなかった。長引く休校により、子どもたちは1年あるいは2年の就学年を失った。
ワクチン接種の推進が始まったが、ロマのコミュニティにワクチン接種について知らせて、接種を受けるように働きかけることは容易ではなく、ここでも問題が生じた。さらに、EU加盟国の一部では、法執行業務を含む当局の差別的な措置により、ロマの住む町や居住区が封鎖の対象にされ、人びとはそこから外に出ることを許されなかった。

力をつけたロマの市民社会
一方、パンデミックは、ロマの市民社会が力をつけたことを証明する機会となった。多くの地域でロマたちは人道支援措置に平等に参加して受益者となり、ロマの学生たちにも電子機器が提供され、コミュニティの代表者が危機管理・緊急事態対応の協議に参加し、多くの国で市民社会がウイルスやワクチン接種に関する情報をロマを含むマイノリティ・コミュニティに提供した。
今回のパンデミックがヨーロッパのスィンティやロマのコミュニティにもたらしたインパクトを、反ジプシー主義との闘いを促す警鐘としてとらえるべきだ。そして、ロマの労働市場へのアクセスを容易にし、自営業を正式なものにし、住環境とインフラを改善し、教育と医療サービスへのアクセスを改善することを促すきっかけとなるべきだ。しかし、各国政府もEUも、その行動を必要とされる範囲にまで広げていない。

二つの調査から見えてきたこと
ERGOネットワーク(ヨーロッパ・ロマ草の根組織ネットワーク)やカリタス・ルーマニアが行った調査からえた教育、雇用、住宅に関するデータは、COVID-19のパンデミックがロマにもたらした影響を浮き彫りにし、反ジプシー主義とロマ排除の問題に早急にとり組む必要性を示唆している。これらのデータは、各国政府やEUにとって、どこに介入すべきかを示す明確な指針となる。
カリタス・ルーマニアはマイノリティの生徒を支援する学習センターを運営している。2020年、カリタスは学習センターに通う約400人の子どもたちを対象に調査を実施した。ERGOネットワークには、多くのスィンティやロマの組織が参加しており、EU加盟国のベルギー、ブルガリア、チェコ、ハンガリー、アイルランド、ルーマニア、スロバキアと、西バルカン諸国のアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、モンテネグロ、北マケドニア、セルビアで調査を実施した。

教育へのアクセス
パンデミックの期間中、学校および生徒たちは家での学習やオンライン学習に頼らざるをえなかった。しかし、この調査では、社会的に疎外されたロマの生活環境はこうした形態の学習への参加をむしろ阻害するように働いたことが明らかになった。
ERGOの調査によると、EU加盟国の学生の31%が自宅でインターネットに接続できず、30%がインターネットへのアクセスに制限があったことが分かった。全体では、EU加盟国のインタビュー対象者の26%がラップトップを、3%がタブレットを利用していた。また、54%が携帯電話を持っていた。西バルカン諸国では、17%がインターネットにアクセスできず、約41%がデータ通信のアクセスに制限があった。
カリタス・ルーマニアの調査では、3月から6月のロックダウン期間中にオンライン授業に参加したロマの子どもはわずか3%で、他の疎外されたグループの子どもの場合は12%であった。ロマの子どもたちのうち、自宅にコンピュータを持っているのはわずか1%(他のマイノリティグループの子どもたちは7%)、タブレット端末を持っているのは3%(他のマイノリティグループの子どもたちは6%)である。そのため、ロマの子どもの54%(他の疎外されたグループからは46%)が親の携帯電話を使って、授業に参加した。

雇用へのアクセス
パンデミック以前は、ほとんどの国の大半のロマは不安定な自営業に頼らざるをえなかった。2017年の国連開発計画の調査によると、西バルカン諸国では、雇用されて働いているロマはボスニア・ヘルツェゴビナで11%、北マケドニアで22%であった。
ERGOの調査では、EU加盟国にいる回答者のうち、12%がパンデミックにより所得創出活動をやめなければならなかった(ブルガリア25%、ルーマニア20%、ハンガリー17%)。その理由は非正規の雇用形態や日雇い労働に従事していたからであった。緊急事態のもとで国が保障する所得補償制度に加入していた人は回答者のわずか5%であった。
西バルカン諸国とトルコでは、回答者の59%が所得創出活動をやめなければならなかった(トルコでは73%、セルビアでは62%、北マケドニアでは17%、ボスニア・ヘルツェゴビナでは26%)。

住宅へのアクセス
カリタスの調査によると、ロマの子どもたちの約79%が、家族5〜6人で1〜2部屋しかない家に住んでいると答えている。
ERGOの調査では、インターネットを利用できない家庭が21.5%、水道を利用できない家庭が12%、電気を利用できない家庭が8%という結果が出ている。
特に懸念されるのは、EU加盟国であるブルガリアとスロバキアのデータである。ブルガリアでは、61%がインターネットを利用できず、58%が水道を利用できず、40%が電気を利用できず、8%が屋根のない生活を送っていた。スロバキアでは、74%がインターネットを利用できず、21%が水道を利用できず、8%が電気を利用できず、2%が屋根のない生活を送っていた。