民族的・宗教的対立の強化に 利用されたパンデミック

ニマルカ・フェルナンド
IMADR共同代表理事・弁護士

民族・宗教間の暴力は、スリランカの政治的リーダーシップの変化にかかわらず、スリランカの歴史の永遠の特徴である。マイノリティへの酷い暴力行為に対する不処罰や、歴代政権の不作為はよく知られている。和解が重要なアジェンダであった2015年から2019年の間でさえも、国がこの問題に対処するという約束を守れなかったことには失望させられた。この政府に対する国民の不満を利用し、2019年11月にゴタバヤ・ラジャパクサが率いる政権が誕生した。

政府が助長する民族的・宗教的対立
残念ながら、スリランカ政府は多数派であるシンハラ・仏教徒と他の民族・宗教グループとの間に「敵対関係」が存在すると主張し、それを助長している。現在のスリランカに住む人びとが主張するアイデンティティは、シンハディパ(シンハラ人の島)やダンマディパ(仏教の教えがある島)といった、民族・宗教的な言葉で記号化された歴史認識に根ざしている。そのようなアイデンティティの再主張は、現代の政治的な議論にも見られ、一般の人びとの考え方に影響を与えている。
スリランカでCOVID-19の感染が始まった当初、「イスラム教徒が公衆衛生上の懸念よりも文化的な慣習や習慣を優先させた」とされ、非難された。この時期にイスラム教徒に対する否定的なステレオタイプが表面化し、人びとの怒りの矛先がイスラム教徒に向けられた。例えば、イスラム教徒は大世帯で生活する傾向があり、コロナの感染リスクを加速させる可能性があると強調する報道もあった。イスラム教徒に対する否定的な見方は、第1波の感染拡大の責任を直接または間接的にイスラム教徒に負わせた州政府関係者によってさらに強化された。また、国家公務員やメディア関係者による感染者の人種的プロファイリングや、イスラム教徒の多い地域からのCOVID-19の感染者を強調することも常態化していた。政府は感染で亡くなった人の火葬を義務化したが、これはイスラム社会の感性や遺体を埋葬するという宗教的慣習を全く無視したものである。火葬はイスラム教では禁止されており、人体の尊厳を冒涜するものと考えられている。しかし、スリランカ政府は、公衆衛生上のリスクを理由に、COVID-19で亡くなった人の火葬を義務付ける政策を継続している。
COVID-19の犠牲者の埋葬儀式について、宗教・信条の自由を尊重することを求めるイスラム教徒や市民社会グループの要求は、「過激派」のキャンペーンであるとレッテルを貼られた。イスラム教徒は「自分たちのための排他的な法律」を求めていると非難された。しかし、一部のキリスト教グループも同様に亡くなった人を埋葬している。パンデミックにおいてこのような言説がもたらした負の結果は、死後においても権利の否定と差別が現実にありうることをマイノリティに知らせるものだった。
火葬を義務付ける国の政策は「宗教的儀式を冷酷に無視している」「埋葬や火葬の安全な手順を示す国際的・地域的な保健ガイドラインを無視している」という批判を受けた。その後、 生後2ヶ月で亡くなった赤ちゃんが両親の同意を得ず、立ち合いもないまま火葬されるという事件があり、反対する市民社会のキャンペーンが高まった。その意思を象徴する白い布をボレラ墓地のフェンスに沿って結ぶというキャンペーンが行われた。宗教団体、政治家、権利団体は、政府が宗教的少数者、特にイスラム教徒を差別していると訴え、抗議の機運が高まった。しかしその後、抗議の証であるこれらの布は警備員によって取り除かれた。
スリランカでは、ジャーナリストを含む人権擁護者や活動家が脅迫され、失踪した暗い歴史がある。パンデミック下でこうした告発が再燃したことは、かつて国家が使用していた古い戦術が新しい文脈でも受け継がれていることを示唆している。さらに、宗教的マイノリティに対する国家の否定的な偏見を維持するために、さまざまな国家機関があちこち配備されていることを示している。宗教的マイノリティが経験した問題に治安当局が関与していることへの懸念は、ヒンドゥー教徒が多く住む北部でも表面化している。
スリランカを訪問したパキスタンの首相が介入するなどの国際的な圧力の結果、政府はCOVID-19の死者の埋葬を承認した。この官報改訂の決定は、2021年3月に開催された国連人権理事会46会期で発表された。本会期ではスリランカの人権状況の精査が議題とされた。

宗教的マイノリティが経験した暴力
マイノリティ、特に宗教的マイノリティは、政治運動、社会運動、仏教僧が煽る右翼的で過激な宗教イデオロギーを推進する政治家、宗教礼拝所に関する行政通達を無視する公務員など、多様な加害者の手によって以下のような種類の暴力を経験してきた。
①個人、機関あるいは集団の財産に対する破壊行為、その他のあらゆる形態の攻撃による財産の損傷または破壊。
②身体的暴力−強制的な拘束、暴行、強姦、拉致、殺人を含むがこれに限定されないあらゆる形態の個人、または複数の個人に対する暴力。
③ヘイトスピーチ−ヘイトスピーチとは、個人またはグループの特性に関連して、侮辱的または差別的な言葉で攻撃したり、使用したりするあらゆる種類のコミュニケーションを広く含む。
④脅迫、威嚇、強制−人や財産に対する暴力行為には至らないが、力による脅迫や意に反する行為を強要するような、言葉による脅迫、電話、対面することを含む。例えばキリスト教徒を脅して信仰活動を中止させることや、対象者を威嚇することを目的とした方法で、監視またはモニタリングすることもこれに含まれる。
⑤差別的な行為または慣行−キリスト教の家庭での祈りや祭祀の開催を禁止または制限するなどを含む宗教的な理由によるあらゆる形態の差別。
多数派の政治勢力は、宗教的・民族的な緊張を煽っている。2019年4月21日、復活祭の日曜日に過激派イスラム教徒グループがスリランカの複数の教会を襲撃した事件により、状況はさらに悪化した。捜査はいまだに続いており、数名が拘束されているが、この襲撃事件の首謀者を見つけられなかったことで、カトリック・コミュニティは失望している。
宗教指導者の中には、宗教と民族の調和のためのキャンペーンを推進する役割を果たしている人もいる。彼らは右派の宗教的・政治的過激派からの深刻な批判に直面しながらもこの役割を果たしてきており、真に称賛に値する。復活祭の日曜日の爆弾テロの直後に起きた暴力は、これらの宗教指導者の介入により収まった。
しかし、一般的には、多数派コミュニティであるシンハラ人は、スリランカは自分たちの国であると考えており、仏教を国の主要な宗教と認める憲法上の規定は、他の宗教を否定するために利用されている。このような環境では、法律や政策は効果的に実施されていないし、適用もされていない。
市民社会は過去数年間、各コミュニティのネットワーク作りを促進し、すべてのコミュニティ間の共存の経験を構築するために積極的に関わってきた。
これに向けて、IMADRアジア委員会は、特に選挙期間中のヘイトスピーチに対するキャンペーンの推進、文化的な対話やイベントの促進、若者や子どもたちのアートコンテストなどに力を注いでいる。