出入国在留管理庁の収容政策に関する現状

草加 道常
RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)

 

2019年6月24日、大村入国者収容所入国管理センター(以下、大村入管センター)で収容中の40才代のナイジェリア人男性が餓死するという衝撃的な事件が起きた。日本の刑事施設や外国人収容施設でも被収容者が餓死するというのは寡聞にして知らない。
このナイジェリア人男性はなぜ餓死をしたのか。これについて説明しておこう。

 

出入国在留管理庁の収容政策の転換
出入国在留管理庁(以下、入管)が管轄する外国人収容施設には超過滞在などの非正規滞在者が収容されている。被収容者のうち、強制送還の命令が出された者には収容の期限はない。無期限の収容ができ、そのことで入管が責任を問われることはない。
ただし収容するのではなく、在宅で強制送還の命令の執行まで待機する「仮放免」と呼ぶ収容代替措置がある。そのときどきの運用によって仮放免許可の基準も変わる。収容期間も変わってくる。
2015年9月18日になってこれまでの運用を転換する法務省入管局長名の「退去強制令書により収容する者の仮放免措置に係る運用と動静監視について」と題する通知が出された。通知は収容者が増え医療など処遇上の問題が生じているとし、仮放免者の動静監視を強化して不法就労が発覚したものは再収容し、仮放免されているものは就労禁止の監視を強化し、生活ができないように追い込み帰国を促すとしている。
2018年2月28日の入管局長発出の「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化に関する更なる徹底について」と題する指示はこうした被収容者への対応や仮放免者への締め付けを強化せよとしている。それとともにこの指示には「仮放免運用方針」が添付されていた。
この運用方針には仮放免を許可することが適当とは認められない者という項があって、8分類をあげ、重篤な病気でない限り仮放免を認めないとされている。刑罰法令違反者や「社会生活適応困難者」、仮放免条件違反で再収容された者、難民認定申請者で濫用・誤用と見なされた者などが列挙され、予防拘禁として無期限収容を続けるとした。これは戦前の治安維持法をはるかに凌ぐ広範なものとなっている。これについては東京弁護士会も会長声明 (i) で批判している。
仮放免を許可することが適当でない者とされると「送還の見込みが立たない者であっても収容に耐え難い傷病者でない限り、原則、送還が可能となるまで収容を継続し送還に努める」とされている。
この結果、入管収容施設の被収容者数は2015年末の1003人から2019年6月末の1253人となり、6カ月間以上収容されている被収容者の割合は2015年末の28.9%から2019年6月末の54.2%へ上昇した。最長の収容期間は6年9ヶ月に及んでいる。
こういった入管の姿勢に対し、仮放免を求める被収容者は入管収容施設で出される官給食を拒否し、ハンガーストライキを行った。ハンガーストライキは全国一斉にあるいは各地ごとに断続的に起こっていた。これが大村入管センターで、なぜナイジェリ人男性が餓死したかの背景だった。
このナイジェリア人男性餓死事件の報告書では、これまで入管ではハンガーストライキへの対応は検討されておらず、今回の餓死は致し方なかったとされ、入管職員の誰一人も刑事責任を問われておらず、処分されてもいない。

 

収容をめぐる国際人権基準
国連自由権規約委員会、拷問禁止委員会、人種差別撤廃委員会などの日本政府報告書審査の最終所見に、収容についての勧告がある。
自由権規約委員会は、「収容が、最短の適切な期間であり、行政収容の既存の代替手段が十分に検討された場合にのみ行われることを確保し、また移住者が収容の合法性を決定しうる裁判所に訴訟手続きをとれるよう確保するための措置をとること」 (ii) と勧告している。
人種差別撤廃委員会(iii) は「庇護希望者の収容が最後の手段としてのみ、かつ可能な限り最短の期間で用いられることを保証すること。締約国は、その法に規定されるように、収容の代替措置を優先すべきである」と勧告している。
さらに拷問禁止委員会 (iv) は「庇護申請者の収容は最後の手段としてのみ使われ,収容が必要な場合でも収容期間を可能な限り短くするようにして,強制退去を控えた収容の期間に上限を導入すること」また「出入国管理及び難民認定法に定められた収容以外の選択肢をさらに利用するようにすること」などと勧告している。
このように無期限の収容について国連の人権条約の各委員会で相次いで疑問が示され、是正することを求められているが、出入国在留管理庁はまったく動いてこなかった。
2020年8月28日、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会は長期収容されていた難民認定申請中の男性2名の訴えに、2名の収容が恣意的拘禁に該当し、自由権規約9条等に違反するという意見(A/HRC/WGAD/2020/58)を採択した。違反の理由として、収容の必要性について個別の評価をしていないこと、収容の可否について司法審査がなされないこと、収容が無期限収容であることがあげられている。(v)

 

なぜ帰国しないのか
なぜ強制送還の命令が出ても帰国に応じないのだろう。
日本人あるいは定住外国人配偶者や日本生まれの子どもなどは日本に暮らしていて、一人だけ送還されれば家族が分離されてしまうからと送還を拒否する人がいる。入管は家族結合や子どもの最善の利益を考慮しない。また日本での生活が人生の半分以上になっていて、生活基盤が日本にしかないからという人もいる。さらに難民認定申請を行ったが認められず、送還されると迫害の恐れを強く感じているという人もいる。
2019年の日本の条約難民としての難民認定率は0.4%に過ぎず、G7を含む主な先進国の2016年の受入数・認定数は、難民支援協会活動レポート (vi) ではドイツが約26万3622人(認定率41%)、フランスが2万4007人(21%)、米国2万437人(62%)、英国1万3554人(33%)、カナダ1万226人(67%)となっている。
同じ難民条約批准国でもこれだけ難民認定率が異なっていると、審査における難民認定基準が違っているのではないかと疑われるほどだ。難民として認めないという日本の入管の結論に説得力はない。「真の難民の迅速な保護」という言葉も信用できない。

 

「収容と送還の専門部会」報告と入管法改定
大村入管センターのナイジェリア人男性餓死事件を受けて、2019年10月に法務大臣の私的懇談会である第7次出入国管理政策懇談会の下に「収容・送還に関する専門部会」が設置され、2020年6月、「同部会の提言が提出された。
この提言では「送還忌避罪」「仮放免逃亡罪」の新設と難民認定申請者の「送還停止効(ノン・ルフールマン原則)に一定の例外」を設定するなどが含まれている。さらに仮放免者への「監理措置」制度を創設し、仮放免者は強制送還に応じる者だけにして、仮放免の期間中は監理者の下で就労できるとしている。その他の者は仮放免を認められず、さらに長期収容が続くことになる。
この提言が出された2ヶ月後、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会が長期収容を国際法違反とした。しかし入管は専門部会報告を基に入管法改定案の国会上程に突き進んでいる。今が国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の意見を考慮した法案に変更できる最後の機会となるだろう。 (vii)

 

i 東京弁護士会『外国人の収容に係る運用を抜本的に改善し、不必要な収容を直ちにやめることを求める会長声明』2019年7月1日
ii 2014年8月20日、日本の第6回定期報告に対する最終見解(CCPR/C/JPN/CO/6)
iii 2014年9月26日、日本の第7回、第8回、第9回定期報告に関する最終見解(CERD/C/JPN/CO/7-9)
iv 2013年5月29日、日本の第2回の定期報告に関する総括所見(CAT/C/SR.1164)
v 日弁連『入管収容について国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会の意見を真摯に受け止め、国際法を遵守するよう求める会長声明』2020年10月21日
vi https://www.refugee.or.jp/jar/report/2017/09/14-0002.shtml
vii 日弁連『「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明』2020年7月3日