2020年11月16日から3日間にわたり、ビジネスと人権に関する国連フォーラム(第9回)がオンラインで開催された。現在の世界の情況と、ビジネス活動がもたらす人と地球への有害な結果を防止するという喫緊の課題を踏まえ、2020年は「ビジネスに関連した人権侵害の防止」をテーマに、人権侵害防止の強化が人と地球の持続可能な未来の構築につながるという強いメッセージを出すことを目指し、29のセッションがもたれた。
反差別国際運動は2019年と同様に、IMADRの活動に関連のあるセッションに参加した。ここでは3つのセッションについて紹介する。*
【課題】
•企業が先住民族の土地のある場所において事業を実施するために、それらの土地を自由で、事前の、十分な情報を得た同意のないまま収用する行為が広く実践されている。多くの場合、政府自身がその許可を出している。
•新型コロナウィルス感染症パンデミックは先住民族の人権侵害を加速した。
•先住民族の権利のための活動家は広範なハラスメントや攻撃を受け、殺害されている。
•市民空間は、特に抗議行動が犯罪とされ、訴追され、表現または集会の自由を制限されることで縮小している。
•女性と子どもはいっそうの人権侵害に直面している。
【展望のある実践】
•ペルーのオンブズマンは、先住民族の権利を侵害する採取産業に関する報告を多数公表している。
•ゼロ・トレランス・イニシアティブは先住民族の問題について意識を高め、知識を共有している。それは、NGOや企業との対話を含むグローバルなアプローチと地域および国内改革を促進する現場からの積極的な要請を含むボトム・アップ・アプローチを組み合わせたものである。
•「責任ある鉱業の保証のためのイニシアチブ」は先住民族が活用できるツールである。これは10年間のデータ収集を経た鉱業におけるベスト・プラクティスを紹介する世界的な基準である。主要な基準の一つは、鉱坑について、先住民族と協議だけ行った、あるいは同意を得ようとしたのではなく、同意を得ていなければならないとする。
【提言】
•先住民族が適切な情報へのアクセスを有し、意思決定過程に積極的な参加することを確保する。
•自由で、事前の、十分な情報を得た同意は尊重されなければならない。
•国内行動計画は、事業が行われる場所における先住民族の権利に配慮する政策を構築できるようにしなければならない。
•侵害があった場合、地域の共同体への訪問と報告が行われなければならない。
•信義責任は、最も弱いものではなく、最も強いものが負わなければならない。
【課題】
•ビジネス界において人種主義は本社からサプライ・チェーンの末端まであらゆるレベルにおいて存在する。
•国連指導原則は曖昧で、明白に人種主義に対応していない。読み手は自分に都合のよい読み方ができるし、企業弁護士は非常に狭い見解をあてはめて適用し得る。
•アルゴリズムが人種およびジェンダーに基づく偏見を含んだ歴史的データを使用しているため、技術分野の企業は中立的とはいえない技術をつくりだしている。
【展望のある実践】
•2020年夏、多くの企業がブラック・ライヴズ・マター運動(BLM)に対して迅速に連帯を表明した。
•マイクロソフトや他の企業において、今年の企業の社会的責任報告(CSR報告)は初めて国内の差別、排外主義とBLMについて取り上げている。
•多くの企業は、自社のブランドを見直し、人種主義的ステレオタイプを連想させない販売戦略を考えている。
【提言】
•企業はビジネスに関連した人種主義の影響を克服するうえでの自社の役割を認識しなければならない。
•企業は人、ビジネス、そしてコミュニティの三つについて、自社の活動とその影響を見直さなければならない。
•企業はコミュニティ、スタッフそして消費者の話を聞かなければならない。
•企業は、人権に関するコミットメントについて、ビジネスを行なっている時だけでなく、政策立案のためのアドボカシーにおいて、あるいは法律改正の働きかけをしている時も一貫していなければならない。
•植民地主義と人種主義について理解していない企業に対して、物語の方法を使って説明することができる。
【課題】
•多くの国にはハラスメントの定義がなく、多くの女性はそれが何かさえ知らない。
•多くの国には、報復に対する保護を保証する包括的な申し立て手続きがない。
•ジェンダーに基づく暴力は新型コロナウィルス 感染症パンデミックのために大きく増加した。
【展望のある実践】
•カナダ政府は根本原因に対応することを目的とするジェンダーに基づく暴力に対する国内行動計画をつくっており、企業に事業展開の前に潜在的なジェンダーに関する影響の分析を行うことを求めた2019年影響評価法を使い、直接民間部門と協力している。
•フィジーとオーストラリアでは、セクシャル・ハラスメントの行為を防止しない企業に対して企業刑事責任を課す。加害者が刑事裁判所で起訴されるだけでなく、企業もそのような行為を防止する文化を構築していなければ起訴される。
•Vodafoneは、複数の国で複数の言語を使い、ジェンダーに基づく暴力に対する一連のアプリをつくった。それらはサバイバーと支援サービスとをつなぎ、意識を向上させることができる。
【提言】
•条約の完全な実施のためにOHCHRとILOとが各国において協力する機会を活用すること。
•何がハラスメントなのかに関して被害者と加害者両方の意識を向上させる。
•企業はジェンダーに基づく暴力の防止において主要な役割を担うことができる。企業は次の措置をとることができる。
1職場の変更、警備チームへのアクセスなどを含む職場における安全措置。
2在宅勤務の被害者が家で安全に働くことができない場合、事務所にアクセスすることができるよう確保する。
3被害者に自分の状況について家で対応できる時間を与える既存の権利に加え、10日間の安全な有給休暇の提供。
4人事、管理職および指導者に対して職場におけるジェンダーに基づく暴力およびドメスティック・バイオレンスがどのようなものかについて研修する。
5ドメスティック・バイオレンスに取り組む団体とパートナーになる。
*報告書はIMADRのHPに掲載しています。https://imadr.net/un-business-and-humanrights-forum-report-2020/