日本からの報告

■第二回 移住労働者に及ぼすCOVID-19の影響
日本の移民人口は着実に増加しており、2019年末には、正規滞在の在日外国人は293万3千人を記録した。それ以外に、就労はできず、医療保険にも加入していない非正規滞在の移民や難民が約8万3千人いる。この非正規滞在者たちがパンデミックの影響を深刻に受けた。仕事、収入が激減したことにより、パンデミック以前に受けていたコミュニティや教会グループからの支援が激減した。パートタイムで働いている移民労働者も、雇用の喪失や労働時間の短縮により影響を受けた。帰国予定にあった移民労働者には、パンデミックの影響により飛行機が飛ばないため、滞在期間を延長できる一時的なビザが与えられた。
日本政府は住民登録のある全住民に特別定額給付金を出す措置をとった。滞在予定が終了して帰国の途にあった技能実習生や留学生については、一時的に中長期在留者の在留資格を回復させ、住民登録に再登録する措置をとり、特別定額給付金10万円を受領することができるようにした。しかし、この情報は必要としている人たち全員に届いたわけではなかった。そしてこのようなパンデミックに対応した特例措置は、困難な状況にあるすべての移住者に用意されたわけではない。非正規滞在者に対しては、救済や支援は何も提供されなかった。こうした人たちに対して唯一取られた措置は、仮放免の期間を延長することであった。このような状況のなか、移住連は新型コロナ「移民難民緊急支援基金」を設立し、困っている移民・難民たちに無条件で3万円の現金支給を行った。2020年8月19日現在、合計1263人に支援金を届けた。

移住連は、緊急支援基金の活動を通じて明らかになった移民や難民が直面する課題に対して、日本政府に対策を講じるよう求めた。それらの対策は、資格がないため受けとることができなかった者への特別定額給付金の給付、就労許可の付与、無料または低額の医療や宿泊施設の提供など多岐にわたる。さらに、非正規滞在者が社会保障サービスを受け、合法的に働く資格を得ることができるようにするために、政府にアムネスティ(在留資格の付与/正規化)を要請することを考えている。
報告:安藤真起子
(NPO法人移住者と連帯するネットワーク)


■第二回 移住労働者に及ぼすCOVID-19の影響
日本の移民政策を理解するには在日コリアンの歴史を知る必要がある。現在日本に居住している80万人以上の在日コリアンのうち、38%が韓国籍または「朝鮮籍」を有する「特別永住者」、46%が日本国籍の取得者、そして16%が在日コリアンと日本人の間の国際結婚で生まれた子どもである。第二次世界大戦末期に日本に居た朝鮮人は約210万人で、1920年から1945年の間に仕事を求めて渡日した、あるいは徴用工として連れてこられた人たちである。その3分の1は戦後、日本の植民地支配からの解放後も日本に残り、1952年にそれまで保持していた日本国籍を剥奪された後、「特別永住者」の在留資格を得た。在日コリアンの3世、4世が日本語の環境のなか育つにつれ、日本人との結婚や日本国籍の取得者が増えてきた。在日コリアンに対する制度的で日常的な差別は徐々に改善されてきたが、初期に受けた住宅や雇用における差別、社会保障からの排除など、多くの点で今日の非正規滞在の移住者の状況と似ている。
新型コロナウイルス感染爆発で、多くの非正規滞在の移住者が仕事を失い、労働時間を短縮された。特に政府の緊急支援金を受けることができず、医療へのアクセスが限られたことは、彼・彼女たちの脆弱性を高めた。政府の救済措置は、移住者の状況に十分対処するものではなかった。在日コリアンはこのような影響は受けなかったが、長年、高校授業料無償化プログラムから排除されてきた朝鮮学校は、パンデミックの間も再び政府による学生への緊急支援から排除された。
日本にはすべての外国人に影響を及ぼすような差別のパターンが根強く在る。日本における人種差別は「内と外」の視点に根ざしており、「単一民族国家」神話によって強化されてきた。公人や政治家による偏見を抱かせる発言は差別を助長している。差別問題に対処するために、市民社会による継続的な啓発、権利擁護そして法改正の運動が重要である。
報告:デビッド・マッキントッシュ
(マイノリティ宣教センター)


■第三回 人種主義と国内法
日本は、1995年に人種差別撤廃条約に加入したにもかかわらず、法律や政策を通じて条約のもとでの義務を果たしてこなかった。2016年6月に施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)は、日本において、人種差別に対処する初めての法律となった。この法律は、ヘイトスピーチの問題が深刻であり、社会を分断しながら被害者に多大な苦痛を与えていることを立法事実として認識した上で採択された。しかし、この法律は外国人や外国籍者に対するヘイトスピーチに限定されている。さらに、ヘイトスピーチの定義は規定されているが、禁止と制裁に関する条項はない。同法に基づく措置は、相談、教育、啓発に限定されており、基本的な政策、計画そして機構を策定する義務を欠いている。2016年12月には、初めて部落差別を規定した「部落差別の解消の促進に関する法律」が施行された。同様に、この法律には制裁条項がない。そのため、同法の有効性は弱いままである。大阪市や東京都を含む多くの自治体が人種差別に対処するための条例を制定している。なかでも、2019年12月に制定された川崎市の条例は、差別禁止条項と刑事罰を違反者に科す条項を国内で初めてとりいれることに成功した条例である。
ヘイトスピーチ解消法には具体的な定義をもって差別を直接禁止する規定がないため、何が違法なのかを特定することは困難である。さらに、日本で民事訴訟を進めるには数年を要し、原告には非常に高額な裁判費用の負担が伴う。また、公判は、ヘイトスピーチの被害者をインターネットと実社会の両空間での報復のリスクにさらすことにもなる。そして、被害者個人が特定できない不特定の個人からなる集団に対するヘイトスピーチは裁判に持ち込むことができない。
外国人人権法連絡会は、2016年9月、自治体による条例策定に向けて市民社会が使えるよう、ヘイトスピーチ解消法のガイドブックを作成した。また、同法を活用して国の人種差別撤廃施策を具体化すること、地方公共団体にヘイトスピーチに限定せず人種差別撤廃条例の制定を促すこと、国際人権基準に合致するよう、人種差別禁止法を制定することを掲げて実践してきた。
国連の人権条約諸機関が繰り返し勧告しているように、人種差別と闘うために日本は人種差別禁止法を制定し、差別の被害者を保護し、国際的な義務を果たすために独立した国内人権委員会を設置しなければならない。
報告:師岡康子
(弁護士、外国人人権法連絡会)


【第3回ウェビナーを受けた 運営委員会からの勧告】
運営委員会は、韓国、日本そして香港において人種差別が長く存在しているにもかかわらず、包括的な反差別法がないことを懸念する。香港の人種差別条例は人種差別撤廃条約に十分準拠しておらず、政府の権限行使における差別を対象にしていない。
したがって、運営委員会は、日本、韓国そして香港において交差的で複合的な形態の差別を含む包括的な反差別法が、効果的な国内人権機関の確保とともに制定されるよう勧告する。