■第一回 新型コロナウイルス対応における東アジアの構造的人種差別
人種差別撤廃委員会は、韓国においてその状況が懸念される集団として、いずれも移住を背景に持つ移住労働者、難民および庇護希望者、非正規移住者、外国人女性と結婚移住者および「多文化家族」を総括所見(CERD/C/KOR/CO/17-19)においてあげている。2020年4月の政府統計によると、韓国における外国人の人口は212.6万人(人口の4.2%)である。
新型コロナウィルス感染拡大のなか、移住者の集団感染は報告されていない。そのことは、移住者の労働・生活条件が、移住者が多く住む他の諸国よりも良好であると考えることができる一方、彼・彼女たちが一般社会とは隔離された生活空間にいるためであるとも考えられる。
しかし、感染症拡大に対する政府の対応について、移住を背景に持つ人びとの脆弱性が見られた。既存の差別的な法律や制度など、社会において存在する構造的差別がより明白な形で現れたと言える。
まず、新型コロナウィルス感染拡大に関するニュースや予防・安全策に関する情報などはほとんど韓国語で発信され、移住者にとってそれらの情報を入手することは困難であった。また、感染拡大当初マスクが不足し、政府は健康保険制度を通してマスクを配布したが、制度に加入していない短期滞在者、留学生や非正規移住者には配布されなかった。
経済的支援策についても、移住者の排除が見られた。韓国政府は緊急支援金の支給を行なったが、「すべての国民」を対象とし、配偶者ビザおよび永住者以外の外国人は排除されていた。また、同じように支援金を支給したソウル市および京畿道の地方政府においても、ほとんどの外国人が排除された。このことについては、韓国の国家人権委員会が憲法の平等権および人種差別撤廃条約に違反すると判断しているが、事態は改善されていない。
このような事態に対し、韓国の市民社会組織は多言語での必要な情報提供、政府による配布を受けられなかった移住者に対するマスク配布などを行なった。また、基金による緊急支援も行った。
報告者:キム・チョルヒョ(全北大学校)
■第二回 移住労働者に及ぼすCOVID-19の影響
感染拡大の当初、移住労働者も上記のような情報へのアクセスの困難、マスク配布や緊急支援金からの排除に直面した。マスク配布について、移住労働者は健康保険に加入していたとしても、長時間労働や雇用者による外出禁止によってマスクを買うことができなかった。
また、飲食業や介護職を含むサービス部門で働く韓国系中国人女性の多くが反中国感情の高まりにより解雇された。しかし、移住労働者は失業保険に強制加入となっていないため、多くの雇用者は移住労働者の加入を回避しており、移住労働者の失業保険加入率は2%にとどまる。そのため、解雇された移住労働者の多くは失業手当を受給することができなかった。
パンデミックのなか、雇用契約が終了したが、本国のロックダウン、または航空便の運航停止のため、または運賃が高騰したため本国に帰ることができなくなった移住労働者に対して就労期間を50日間延長する暫定措置が取られたが、その期間が終わると他の措置はない。また感染症拡大前、あるいは初期に帰国した移住労働者は就労許可の期間がまだ残っていても韓国に戻ることができなかった。
インターネットやSNS上での移住者に対するヘイトスピーチも増加した。中国人が感染を広げるというような扱いを受けたり、移住労働者の多くは職場と寝場所の往復だけで、社会一般と関わることが少なく、感染を広げる機会はほとんどないにも関わらず、雇用者が彼・彼女たちの外出を禁止することなどが起こった。
このような状況を受け、政府に対しては、支援金支給など新型コロナウィルス感染症に関連する支援策をすべての移住者に平等に提供することのほか、労働許可制の就労期間や雇用主の変更に関する制限の緩和、失業保険への加入など現行法および制度の見直し、人種差別禁止を含む包括的差別禁止法の制定などが求められる。
報告者:ヨンサプ・ジョン
(韓国民主労働組合総連盟)
■第三回 人種主義と国内法
韓国では2000年代に入ると結婚などによる移住者が増加し、「多文化主義」が論じられるようになった。そして2008年には多文化家族支援法が制定されたが、この法律でいう多文化家族とは、韓国人と移住者であるその配偶者のいる家族であり、非常に限定的であった。一方、韓国人の「純血」と優位性を主張し、移住者に反対する言説も広がり、2016年には差別禁止法制定の阻止を掲げるキリスト教自由統一党が設立された。
韓国における平等と差別の禁止に関する法律の現状を見ると、まず憲法は、すべての市民が法のもとに平等であると規定する。文言からはこの権利が外国人についても及ぶかどうか明確ではないが、憲法裁判所は平等権について、外国人にも適用されるが、「政治的権利など権利の性質および相互主義の原則によって制限され得る」と解釈している。韓国国家人権委員会は、差別事件を扱う権限を有する機関である。その設置法の韓国国家人権委員会法に基づき、同委員会は人種、皮膚の色、民族的出身、宗教などに基づく差別の申し立てを調査することができるが、拘束力のない勧告しか行うことができない。また、差別の申し立ては多く行われているが、受理される件数は少ない。そのほかにも労働、教育など個別の分野で差別を禁止する法律はあるが、それらには執行措置は規定されていない。
市民社会組織は、包括的差別禁止法の制定を求め続けていたが、2003年、盧武鉉政権が差別禁止法の制定を掲げ、2006年には韓国国家人権委員会も法案作成の勧告を行った。2007年に法務部は差別禁止法の法案を公表したが、差別禁止事由に性的指向を規定することに反対する保守系プロテスタントのグループからの強い抵抗などがあり、国会に提出されたのは、性的指向のほかにも出生国、言語、家族状況、学歴など7つの事由が原案から削除された法案であった、結局法案は採択されず、その後も議員による法案が何度か提出されたが、制定に至らなかった。また、その間も社会権規約委員会、自由権規約委員会、子どもの権利委員会、人種差別撤廃委員会や女性差別撤廃委員会から、包括的な差別禁止法の制定が勧告されていた。2020年にも、正義党により性別、障害、年齢、言語、民族的出身、人種、国籍、出生国、宗教、性自認、性的指向、思想、政治的意見などに基づく差別を禁止する法案が提出されている。
2020年4月に行われた世論調査では、回答者の88.5%が差別禁止法の制定を支持しており、82%は韓国において差別が大きな問題であると認めている。差別に関する人びとの意識が高まり、不平等を是正し、社会的な対立を緩和する立法措置が求められている。
報告者:キム・ジヘ
(江陵原州大学校多文化研究科准教授)
【第1回ウェビナーを受けた 運営委員会からの勧告】
運営委員会は、韓国、日本そして香港の各政府の新型コロナウイルス感染拡大への対応は、制度的人種差別を表しており、移住者、難民、庇護希望者およびその他の周縁化されたコミュニティの適切な保護がなされていないことを懸念する。
そのため、運営委員会は、基本的な危機対応政策には移住者を含むすべての人びとが含まれること、そして差別なくすべての人が人権を享有できるよう確保することを勧告する。