求められる誰もがアクセスできる 国連人権条約機関

小松 泰介
IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

2020年9月、スイスとモロッコがファシリテーターとしてけん引してきた国連人権条約機関システムのレビューに関する報告書が国連総会に提出された。このレビューは2014年に採択された国連総会決議68/268「人権条約機関システムの効果的な機能の強化」で決定された措置の効果を評価するものである。

現在、人権条約機関は自由権規約委員会、社会権規約委員会、人種差別撤廃委員会、女性差別撤廃委員会、拷問禁止委員会、拷問防止小委員会、子どもの権利委員会、移住労働者保護委員会、障害者権利委員会、強制失踪委員会の10の委員会が存在し、それぞれの人権条約や選択議定書の加盟国(以下、締約国)による履行状況の監視を行っている。最初の国際人権条約である人種差別撤廃条約が1965年に採択されて以降、条約の数と共に各条約の締約国数は増え続けてきた。それに伴い、締約国の報告書審査や個人通報制度下での申し立ての数も増えつづけ、これまでのやり方では処理できなくなってきていた。

人種差別撤廃条約の締約国は国内での条約の実施状況について4年毎に報告書を提出することが求められている。人種差別撤廃委員会では3週間から4週間にわたる会期が年3回あり、その中で報告書審査を行っているが、年間で審査できるのは19ヵ国前後となっている。2020年9月時点での締約国数は182ヵ国であるが、このうち委員会への第一回報告書を提出していない国は14ヵ国、定期報告書の提出が5年以上遅れている国が75ヵ国あった(2019年10月末時点)*。裏を返せば、これだけの国の報告書提出が遅れているから審査待ちの報告書が山積みされていないということであり、もしすべての締約国が期限通りに報告書を提出したら処理しきれなくなるというのが実態である。これは人種別撤廃委員会に限らず他の条約機関に共通している問題である。

報告書を比較的期限通りに提出している国からは、「報告書を真面目に出して審査を受けて厳しい勧告を受ける国ぐにがいる一方で、報告書をまったく提出しない国ぐには監視を免れている」という指摘がされている。また、市民社会からも、自分たちの国が報告書を提出しないために条約機関制度を活用できないという懸念が示されている。筆者も、いろいろな国の先住民族やマイノリティの団体、人種差別問題に取り組むNGOに、人種差別撤廃委員会の活用に関してトレーニングを提供する度に、「自分の国が報告書を提出しない場合はどうすればいいのか」という質問を何度も受けてきた。締約国による報告書の提出を促すために、決議68/268を基に国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による技術支援や報告制度の簡易化といった措置が取られてきた。しかし、その効果は十分とは言えないのは前述の報告書数を見ても明らかである。

このような現状に対し、IMADRも創立メンバーとして参加する国連条約機関NGOネットワーク(TB-Net)では、国内および地域レベルで活動するさまざまな人権NGOとのコンサルテーションを昨年に実施し、各条約機関による各国の審査日程が確定されたカレンダーの案を作成し、今年のレビューに際して提出した。この案では、締約国の報告書提出サイクルを4年で維持しつつ、現在の予算と時間的制限の中でもすべての締約国の審査を可能にするために、ジュネーブでの6時間の「包括的審査」と、OHCHR地域事務所、国内もしくはジュネーブでの2時間から3時間の「集中審査」を組み合わせる内容である。

スイスとモロッコによる報告書ではカレンダーの具体案まで言及はなかったものの、OHCHRが条約機関と共にスケジュール案およびコストの見積もりを作成することを提言している。今年の秋の国連総会ではこの報告書を受けた新たな決議を採択することが予想されている。どこの国にいるか関係なく誰もが国連人権条約機関にアクセスできるようになるために、TB-Netとして引き続き働きかけていく。

*A/74/643 Annexes