難民申請者や移民の苦境と、緊急支援

佐藤 信行
移住者と連帯する全国ネットワーク理事

「緊急支援基金」
≪母国に残っている家族のことを思い、遠くから母国の大感染の状況を見るのがとても辛い。何とか住処を確保しようとしたが、みな断わられてしまった……≫
5月8日、移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は、「新型コロナ 移民・難民緊急支援基金」を立ち上げた。8月までの4カ月間で基金を集め、特別給付金10万円などの公的支援をまったく受けられない難民申請者や、公的支援に容易にアクセスできない移民に、一人3万円ずつ渡そうと始めた。
移住連の会員(団体:95/個人:435)のネットワークを活用して、全国各地の会員が日々接している支援対象者の申請書を作成し、それを移住連「基金運営チーム」が毎週月曜日に点検し、翌日から会員に送金し、その会員が支援対象者に渡す――という作業を5月25日から開始した。
基金への募金を呼びかけてから、全国の市民団体・労組・教会関係者や、新聞・ラジオ・SNSで基金のことを知った市民から多額の募金が寄せられ、またいくつかの財団からコロナ緊急助成金を受けることができた。

そこで私たちは、6月に当初の基金目標2000万円を3000万円に引き上げ、より多くの人びとを支援することにした。支援対象者の状況はあまりにも過酷であり、そしてその数も今後増えていくことが確実だからである。

支援を受けた人びと
この1カ月間、私たちが支援してきた難民申請者や移民639人のプロフィールを、ここで紹介することはできない。彼ら彼女らの大半は、在留資格なし、住民登録なしの人びとであるからだ。その人びとの基本的属性だけを示す。
年齢別で見ると、幼児59人、10代71人、20代128人、30代139人、40代135人、50代84人、60代19人、70歳以上4人という内訳だった。在留資格は、仮放免(難民申請中)が121人、仮放免が261人、短期滞在(難民申請中)が31人、短期滞在が22人、特定活動(難民申請中)が42人、特定活動が50人、在留資格なし/超過滞在が81人であった。
国籍別で見るとトルコ(クルド人)が236人、ミャンマーが76人、ベトナムが52人、フィリピン42人、イランが23人で、その後スリランカ、エチオピア、バングラデシュと続き、計40カ国に及ぶ。また、無国籍が一人いた。

制度的差別とコロナ禍による苦境
コロナ禍によってさらに苦境に陥っている人びとの状況を、支援要請申込書から抜粋してみる。
<“3密”となった入管収容所から仮放免、しかし……>
超過滞在などで在留資格をなくした移民は、入管局の施設に収容される。そこから仮放免となった場合、就労はできない。また住民登録がないため、健康保険にも入れず、公的支援も受けられない。家族や友人・知人、あるいは民間のシェルターに身を寄せて、しのいでいくしかない─。
◆離婚して息子に頼っているが、息子には家庭があり面倒をかけたくない。血圧が安定しないが、保険に入れず、医療費もかかるため、困窮している。(60代母)
◆家族5人全員が仮放免。夫が暴力を振るう騒ぎもあった。子どもたちへの暴力は減っているが、いつ元に戻るのか不安。(40代母)
◆今年4月、兄弟で入管収容所から仮放免された。シェルターで生活を始めたところ、火事にあいシェルターが焼失。現在、保証人の友人の家に居住させてもらっているが、火事の時、火の回りが早かったので所持品の大半が焼失。(30代と40代の男性)
◆仮放免されたが、収容により体調悪化。妻は以前より心臓病を患い、娘は母国での迫害により精神疾患を発症している。医療機関にかかりたくても、お金がない。(50代父)
◆家族5人全員が仮放免。現在、在留資格を求めて裁判中だが、コロナ禍でわずかなアルバイトもなくなってしまい、学業の継続が難しい。親戚や友人もおらず、日本人の支援者が頼りの生活。(高校生)
◆お金を貸してくれる友人たちが失業し、頼むことができなくなった。夫は心臓病を抱え、妻は統合失調症。近所のコンビニのオーナーが食料を提供してくれて、何とかしのいでいる。(50代父母、小学生、幼児)

<帰国しようとするも、帰国できず……>
◆仕事と在留資格を失い、子どもを出産したばかり。帰国したいが、空港封鎖が解かれるまでの生活が不安。(30代母と乳児)
◆母国への渡航ができないために帰国できず、短期滞在の在留資格。しかし就労できないために、アパートの家賃が払えず、知人宅に居候している。夫は本国にいるが、無職で頼れない。(30代母と子ども)
◆技能ビザで5年前に来日し、シェフとして就労。今年に入って雇用主が夜逃げし、賃金も3カ月未払い。労働基準監督署へ出向いた結果、雇用主は支払いを約束したが、現在のところ連絡がない。母国への帰国を決意したが、フライトが3度キャンセルされ1カ月以上待たされている。(40代男性)

<就労可の在留資格でも……>
◆再婚した日本人の夫は、家賃や公共料金だけを支払い、それ以外の生活費は一切渡してくれないため、生活費や学費は、ダブルワークと、長女のアルバイトでやってきた。2月末に子どもを死産してしまい、休みを取っている間にコロナでアルバイト先から解雇されてしまった。またメインで勤めていた食肉加工の工場の仕事が減り、また長女のアルバイト収入も減ってしまった。(40代母と娘/日本人の配偶者等)
◆現在、高校3年生。2019年春、母が再婚しアメリカに移住。渡米後に送ってくれる仕送りで家賃や学費を払い、飲食店のアルバイトで生活。しかし3月、アルバイトを雇止めになり、アメリカにいる母からの仕送りも止まってしまった。(高校生/定住者)
◆親からの虐待により、大学入学をきっかけに家を出て、シェルターに入居。奨学金とアルバイトにより自活していたが、コロナ禍でアルバイト先が休業し、収入がない。(大学生/日本人の配偶者等)
◆次男が難病にかかり、妻は妊娠したことから就労できなくなった。その後、娘2人が生まれたが、母の夫が脳卒中で倒れ、親たちを引き取った。コロナ禍で4月の就労は7日間のみ、さらに生活は逼迫。(40代父母/永住者)

「片側通行の慈善」ではなく「協働」として
上記は、支援要請第一回申込書から抽出したコロナ禍での外国人住民の「現住所」である。日本社会の底辺に押しやられ、SOSも発せられない人びとの、かすかなつぶやきをしっかりと受け止めたい。なぜなら私たちは、「緊急支援基金」を立ち上げた時、この基金は「分断と排除を乗り越えて、一人ひとりの苦境の支えとなると同時に、しなやかで豊かな社会づくりの一助となるはずだ」と確信して始めたからである。
≪片側通行の慈善とははっきり異なり、相互扶助への参加者全員が、与える側と受け取る側の両方であることが、人びとを団結させる。これは相互依存であり、互いの富を分け合うよう協力する人びとのネットワークだ≫(レベッカ・ソルニット『災害ユートピア』)

*「移民・難民緊急支援基金」の詳細は https://migrants.jp/index.html