国連人権システムのジェンダー・パリティ

小松泰介
IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

2019年6月の国連人権理事会41会期において、コロンビアとメキシコが提出した「女性と少女に対するあらゆる形態の差別の撤廃」に関する決議 が全会一致で採択された。この決議では、人権条約機関などの国際機関におけるジェンダー・パリティ(男女比の均衡)を促進するために、各国に対して国内における候補者の選考などにおけるガイドラインを制定することを呼びかけた画期的な決議である。また、2021年の人権理事会47会期に国際人権機関における女性候補者の擁立と選出に関する良い実践例をまとめた報告書が提出されることも決定した。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の統計によると、国連人権理事会によって任命される特別報告者、作業部会、独立専門家の担当者らの男女比は男性56%:女性44%となっている(2019年10月時点)。また、人権条約機関においては、男性55%:女性45%である(2019年1月時点)。一見するとジェンダー・パリティがほぼ実現しているように見えるが、人権条約機関に関しては女性差別撤廃委員会の23人の委員のうち21人(91%)が女性であることで全体の女性の数が底上げされており、ほとんどの委員会では男性が60%から80%を構成しているのが実情である。

いち早くジェンダー・パリティを達成した人種差別撤廃委員会
人種差別撤廃委員会(CERD)では半数である9人の委員を改選する2019年6月の選挙の結果、6人の女性候補者(内、新人3人、再選3人)が当選した。この6人が2017年から委員を務める3人の女性委員に加わることにとって、初めて委員会選挙がジェンダー・パリティの達成につながるという歴史的な選挙となった。CERDは1970年に最初の会期を開催してからこれまで常に男性の委員がその大多数を占めてきた委員会であり、18人全員が男性の時も少なくなかった。しかし、前回2017年の選挙によって20%だった女性の割合が約40%まで増加していた。
2020年1月の時点で、10ある人権条約機関のうちジェンダー・パリティが実現しているのはCERDだけであり、子どもの権利委員会と女性差別撤廃委員会以外はすべて男性の委員が過半数を占めている。障害者権利委員会にいたっては2016年の選挙によって18人の委員の中で女性が1人になった経緯があり、2018年の選挙でなんとか6人まで増加にこぎつけた。このような現状に対し、反差別国際運動(IMADR)が立ち上げメンバーとして参加している国連条約機関NGOネットワーク(TB-Net)でもジェンダー・パリティを目指して取り組んでいる。
人権条約機関の委員選挙は「締約国」と呼ばれる該当する条約に批准している国が候補者を擁立し、締約国による無記名投票による得票順で選ばれる。この選挙の仕組みにおいて、そもそも候補者自体の男女比が不均衡であることが多いために当選する委員も男性の方が多くなってしまうという根本的な問題が存在する。そこで、TB-Netでは締約国に対し女性の候補者の擁立を増やすとともに、投票する際に該当する委員会のジェンダー・バランスを考慮に入れるよう働きかけを行っている。このような取り組みの結果、徐々にではあるが昨年の人種差別撤廃委員会の選挙のような成果につながっている。

国内社会の状況を反映する国連人権システム
TB-Netは2018年11月にジュネーブの各国政府代表部を招き、条約機関選挙に関する円卓会議 をアムネスティ・インターナショナルと共催したが、この時に一人の参加者が、「条約機関選挙の候補者の推薦を国内のアカデミアに呼びかけると、推薦されるのは男性ばかりである。」と、指摘していた。つまり社会においてジェンダー平等が実現されていないことが人権条約機関にも反映されているということである。国連人権システムにおけるジェンダー・パリティを国際社会が議論し始めたのは大きな前進ではあるが、その実現には各国が自らの足元を見つめなおす必要があることを指摘する象徴的な一言であった。