イスラム教国において女性の平等や人権の確立を実現しようとする際、壁として立ちはだかるのが「シャリア法」である。シャリア法とはコーランと預言者ムハンマドによって示されたイスラム教の規範の体系のことを指し、イスラム教の国々ではシャリア法に基づいて国内法が作られているが、女性の権利を制限したり、女性を従属的な立場に置く法律が多く存在する。このような現状に対し、イスラム教の女性たちが中心となり、イスラムの教えに則った上で、イスラム教国の家族法や慣習における平等と公正を実現しようと活動しているムサワ(Musawah)というNGOがある。北京+25 CSOフォーラムに参加していたムサワについて、そのHPや資料に基づいて活動内容を紹介する。注:ホームページアドレスはhttps://www.musawah.org
ムサワは、シャリア法は不可侵な神の法であると尊重し、「現在の女性の不平等さや従属性を生み出しているのはシャリア法ではなく、それを根拠に人が作った法である」と考える。さらに、イスラム教国における法律が時代や地域によって非常に多様なことから、現代の生活に合わせて女性の平等や人権を認める法律に変革することは可能であり、必要なことであると主張している。
そのためにムサワが2010年から取り組んでいるのが、家庭における男女平等実現のための知識構築キャンペーンだ。このキャンペーンでは、キワマやウィラヤ(Qiwamah and Wilayah)と呼ばれる男性が女性を支配する権限に着目する。伝統的なイスラム法や慣習で認められていたこの権限は現代の法律にも採用され、イスラム教社会における父権的家族制度を維持し、強化する中心的な役割を果たしてきた。例えば結婚すると、妻は夫の支配権(キワマ)の下に置かれ、妻の従順と服従の代わりに夫による保護が受けられるとされているが、結婚に関するこの考え方は現在多くのイスラム教国の家族法の基礎になっており、経済的安定、離婚する権利、結婚に関する権利、性と生殖に関する権利、相続と国籍に関する法律などにおける不平等を生んでいる。また実際は男性が家族を保護しなかったり、女性が家族を養うなど、古い解釈に基づいた男性による女性の支配は現代の家族の現実にそぐわないものになっており、人権と平等を尊重する新しい解釈が必要であると訴えている。
このように、イスラム教の教えと女性の権利、平等、家族法ついての知識構築を行う一方で、国際レベルでのアドボカシー活動にも力を入れている。2016年からは地図で見る世界のイスラム家族法プロジェクトも開始。結婚における両性の平等、結婚への女性の合意、婚姻関係を結ぶ女性の能力、一夫多妻制、離婚する権利、児童婚、離婚後の女性の経済的能力、子どもの親権、後見人としての地位、相続権、家庭における女性に対する暴力、国籍に関する男女平等の権利の12項目について、それぞれの国の関連する国内法の規定、法的枠組み、判例などを集め、ホームページの地図上で情報を公開している。現在、32カ国の情報を見ることができる。
また女性差別撤廃委員会での締約国審査の際、該当国の市民社会組織と協力してシャドーレポートを提出したり、イスラム教に基づく女性の平等と人権についてのムサワの考え方を委員会や国連人権高等弁務官事務所に提出するなど、国連人権システムを活用したキャンペーンも展開している。
北京+25 CSOフォーラムにおいてムサワのザイナ・アンワーは、「家庭の中でジェンダー平等がなければ公的空間において平等が実現できるはずがない」と力強く語り、家族法の改正のための世界的行動と連帯を呼びかけた。