今 ジェンダー平等は

小森 恵
IMADR事務局長代行

世界経済フォーラムが発表した世界のジェンダーギャップ指数2020によれば、世界153ヵ国中、日本の平等指数は121番目にあり、前年の110位からさらにランクを落とした。特に、政治参加、労働所得、管理職や専門職への任用において100位以下である。「女性が輝く・・・」という首相肝いりの言葉は空しく響く。
ジェンダー平等を求める女性たちの興奮が渦巻いた北京女性会議から今年で25年となる。2020年の今、日本では、夫婦別姓の法的認知を求める法廷での闘いが今も続いている。性犯罪の加害者は「暴行・脅迫」の要件に守られ、その一方で多くの被害者は声をあげることもできず、自責の念にさいなまれている。
アメリカで始まった #Me Too 運動は一瞬にして世界を駆け巡った。韓国で社会現象となった「82年生まれ キム・ジョン」は日本でも大きな反響を呼び、今後、17の国・地域で出版される。そして今年3月8日の国際女性デーに、世界の女性たちはグローバル・ストライキを呼びかけている。女性の働きが歴史的に過小評価されてきたことに、「女性が止まれば世界は止まる」と声をあげる。
北京女性会議から25年、世界のジェンダー平等はどうなったのだろう。この特集で考えたい。北京+25 アジア太平洋地域CSOフォーラムに集まった女性たち。そこで知ったムスリム女性たちの目覚しい活動。アジア太平洋地域のフォーラムの前にソウルで開かれた東アジアCSOフォーラムについても報告していただく。そして、日本における女性たちの闘いについて語ってもらう。

アジア太平洋CSOフォーラムに参加
北京女性会議から25年目を迎えるにあたり、国連はその前年の2019年、世界各地域において北京で採択された宣言と行動綱領のレビュー会議を行った。ジェンダー平等と女性のエンパワメント実現がどこまで進んだのかを見直す会議である。アジア太平洋地域においては、2019年11月27日から29日にかけてバンコクで閣僚会議が開かれた。それに先立つ11月24日から26日まで、同じ会場で地域のCSO(市民社会組織)フォーラムが開かれた。IMADRはアイヌ女性と在日コリアン女性、そしてインドのダリット女性とともにCSOフォーラムに参加し、26日にはIDSN(国際ダリット連帯ネットワーク)との共同でワークショップを開催した。
CSOフォーラムは、#「フェミニストは制度の変革を求めている」のもと、怒り、希望、行動のテーマ順に3日間開かれた。日本からの参加者はIMADRを含め7人だけであった。日本だけでも5000人が参加した北京会議からは隔絶の感がある。25年レビューは、ジェンダー平等とともにジェネレーション平等をテーマとして掲げている。25年は4半世紀であり、娘の世代や孫娘の世代への交替が行われていて当然だ。アジア太平洋のフォーラムでは20代、30代の参加者の活躍が目立った。

女性の数だけ怒りがある
フォーラムの開会冒頭、女性の権利を行使するスペースはむしろ狭まり、ジェンダー平等の達成は遥か彼方だという認識が共有された。開会のセッションは参加者が自由に「怒り」を表現する場となった。参加者は次々と怒りを表した。 
「島は私たちのアイデンティです。気候変動でなくなるようなことはあってはなりません」「気候変動への対策は偽物です。問題の本質は企業活動にあります。北の国々は責任をとるべきです。つけを南に回して知らん顔をしてはいけない」「トンガのLGBTIQ はいじめや差別をうけています。社会の無理解がさらに状況を悪化させています」「政府は住民を無視して多国籍企業に土地や資源を売却しています。私たちは生活の場を失うしかありません」「モンゴルの女性人権活動家は脅しや攻撃にあっています。シングルマザーの土地が採掘企業に狙われ、反対すれば命さえ危うい」「家族のなかに平等がない限り、社会における女性の平等は実現されません」「女性の労働は過少評価されています。家事労働やケアワークはいまもGDPにカウントされていない」「移住労働の禁止は、“不法”移住労働者を作りだすだけです。DVから逃がれて国外に行く女性たちを待ち受けているのは性搾取や労働搾取だけです」「家族法が女性を差別的に扱っています。女性は財産所有権が認められず、有給の仕事にも就けません」「イスラム改革を求める女性たちの手強い相手は男性の宗教指導者たちです。彼らは宗教に関わるすべてを決定する唯一の権威者とみなされています」「路上で警察に捕まります。私たちがセックスワーカ―と知っているからです。お金をせびり、セックスまで求めてくるその一方で、私たちを悪人扱いします」「中国政府は手話の使用を奨励していません。離婚裁判では自ら証言台に立たなくてはいけませんが、聴覚障害の女性はどうすればよいのでしょう」「レイプの定義に同意の不在をいれなくてはならない。世界の刑法の大勢は力の行使をレイプの定義にしています」
これらは、女性たちの怒りのほんの一部である。こうした声が明らかにしているように、ジェンダー平等は女性差別を支えている社会の構造、体制、規範などを変えないと実現しない。

マイノリティ女性のワークショップ
最終の26日、IMADRとIDSNは共同で「マイノリティ女性・共に変化をもたらしてきた25年」と題したワークショップを開催した。アイヌ女性の松平亜美さん、在日コリアン女性の李月順さん、インドのダリット女性のジュディス・アン・ラルさんが発言者となった。参加はできなかったが、部落女性の山崎鈴子さんと、ネパールのダリット女性は動画で意見を送った。松平さんは、アイヌ民族の存在が国内で可視化されていない現状について、学校教育におけるアイヌの歴史の扱いから述べた。李月順さんは、政治的権利を認められていない多くの在日コリアン女性にとって、マイノリティ女性に関する政府の政策に物申していくうえで、他のマイノリティ女性との連帯は重要だと力説した。ジュディスさんは、法律があるにもかかわらず、ダリットに対する差別はインドの公的・私的空間に根強く存在し、さらに社会全体における女性の従属的立場が、ダリット女性への暴力を蔓延、放置させていると厳しく批判した。山崎鈴子さんは、「知らない権利は使えない」として、マイノリティ女性自身の権利意識の喚起とエンパワメントの重要性に触れた。ネパールのFEDO(フェミニスト・ダリット協会)は、社会の底辺に追いやられてきたダリット女性たちが政治代表を地方議会に送りだすプロセスを動画で示した。女性たちが直面する差別は複合的である。ジェンダーに基づく差別に、人種、民族、世系、性的指向、障がいの有無、信仰、国籍、社会的出身などに基づく差別がからみあい、二重、三重の困難がふりかかる。フォーラム参加者の大半はそのことを受け止めたうえで、次に跳ね返す力をもっていることを示した。

希望そして行動へ
2・3日目は希望と行動を示す日であった。ネパールから参加した視覚障害の若い女性の言葉に大きな拍手が集まった。「私たちの課題を国内だけではなく地域に広げたい。そこから若いフェミニストが学び、すべてのフェミニストが団結する。私たちは変化のために次の25年を待つことはできない。今すぐ変化を!」