香港での民主化運動 一人の香港人から見て

アニー・リー
香港ジャスティス・センター 調査・政策上級オフィサー

─民主化運動が続く香港。IMADRと協力関係にある香港ジャスティス・センターのアニー・リーさんにコメントをいただいた。─

私は香港のNGOで人権活動に携わっています。その立場より、香港の現在の運動について私の意見を述べたいと思います。
読者の皆さんはご存知と思いますが、香港で抗議運動に参加している人びとの多くは香港政府に次の5項目を求めています:
・「逃亡犯条例」改正案の撤回
・6月12日の抗議行動を“暴動”と呼んだことの撤回
・警察による抗議活動制圧に関する独立した調査の実施
・逮捕された抗議行動参加者の釈放と不起訴
・普通選挙権

香港政府は一番目の要求を受け入れ、2019年10月に立法会が再開されたら「逃亡犯条例」改正案を正式に撤回すると約束しました。最近、これら5項目に加え、香港警察の即時解体という要求が抗議運動側から出てきました。
私の周囲には、これら要求について異なる意見をもっている人もいます。例えば、法律を違反した抗議参加者は起訴されるべきだという意見があります。あるいは、抗議運動は広がりすぎてつかみどころがないという意見もあります。さらには、権利をもぎとられたように感じているのではないか、運動が止まったら国は報復に出ると恐れているのではないかなどの見方もあります。抗議運動において私はいくつかの発見をし、心を動かされました。
今、街のあちこちの通りや壁は、さまざまなメッセージが書かれたポストイット、手作りのポスター、あるいは折鶴などで埋めつくされています。人びとはこれをレノンウォール**と呼んでいます。私の家の近所で、ある夜、警察官が歩道橋めがけて銃を発砲する事件が起きました。幸い負傷者はいませんでした。その翌日、橋はあっという間にレノンブリッジになり、今もそのままです。歩道橋は発砲事件の2か月前にできたばかりでした。さらに大埔(タイポ)では、レノントンネルまでできました。(**:レノンウォールは2014年の雨傘運動のときに香港で出現した。ジョン・レノンの死を悼んで、自由と平和を希求するプラハの若者が哀悼のメッセージを書いた壁に由来する。)

レノンウォールを通る人は、たいてい立ち止まってメッセージを読みます。時には1カ所に10人以上の人だかりがしていることもあります。レノンウォールは自由な表現の場であり、同時に情報収集の場となっています。
創造力
抗議運動が進むにつれ、香港政府の対応は従来通りの紋切り型であり、その一方運動参加者は多種多様で、その手法も工夫を凝らしているとした見方が広がってきました。政府の政策にただ反対したり文句を言うのではなく、人びとは町を愛する気持ちから、さまざまなものを編み出し作りあげています。それが私たち自身をエンパワーし、人権を保護して促進する活動を支えてくれています。人びとはグラフィックスを描き、歌を作り、ミュージックビデオを作りながら意見を表明しています。

マイノリティの権利
ここにきて、ようやくマイノリティの権利の問題は運動のなかで真剣に、そして好意的に考えられるようになりました。私は香港でこれまでの7年間、主に民族的マイノリティと移住者の権利を擁護する活動に関わってきました。香港ではマイノリティの権利はマイノリティ自身と理想を掲げる小さなグループが考える問題だとされていると感じてきました。しかし、この運動では、多くの人びとがマイノリティの権利に注意を向け、時には守ろうとさえし始めています。例えば、聴覚障害について学ぶ人が増え、社会運動を支持したり、参加するようになりました。いろいろな集会や運動側の記者会見にも手話通訳がつくようになりました。
マイノリティの権利への関心の高まりは、マジョリティが国家により自らの権利が脅かされていると感じていることから来ているのかもしれません。国家は人びとを分類し、外国人、庇護希望者や難民、LGBTIの人びと、あるいは少数派の宗教の信者たちを人権の享有から排除しているが、同じことを特定の政治的意見をもっている人にもするかもしれないと、一部のマジョリティは気づき始めています。

連帯
以前、私は愚かにも、連帯はNGO間の単なるネットワークに過ぎないし、人権活動家が相互支援の精神のもとに発するステートメントだと考えていました。今振り返れば、その時は連帯の本当の意味を理解していませんでした。今、香港は、「人権のために闘っている人が処分されていて、重罰をうけるかもしれない。その一方で人権を侵害している者たちが国家により守られている」、そのような状況にあります。こうした時に、真実を求める私たちの味方をしてくれている人たちが他の場所にいると安心できることはとても重要です。
香港の人権状況は悪化しつつあるという意見に異論はないけれど、それに対して私たちができることはほとんどないと考える人に、私は何度も会ってきました。その度に私は、できることはあると一生懸命説得します。世界には計り知れないほど問題があり、あなたもその解決に責任があると人に言うのは容易いです。しかし、そう言った時点ですでにあなたは失敗しているからです。そのことに私は気づきました。人びとの支持をえるには、人びとに希望を与えなくてはならない、それを私たち自らの行動と創造力とおそらく犠牲的精神をもって行わなければならないと。私は、香港の若者の多くがそのような希望を与えてくれていると考えます。
私を含め、多くの香港人は日本の人びとからの暖かくて誠実な支援にとても感謝しています。私の組織は、IMADRが国連人権理事会の場で繰り返し香港の人権状況について口頭声明を出して、懸念を表明してくれたことに感謝しています。日本の市民社会が引き続き香港の人権状況に関心をもち、日本の政府に対して香港の人権のために、国連人権理事会などを通して行動をとるよう求めてくださることを願っています。
翻訳:小森恵

<<香港の人種差別に関するIMADRの取り組み>>
IMADRは、第41会期人権理事会(2019年7月)において、「香港のマイノリティの抗議参加者への人種差別的ヘイトスピーチ」に関する声明を口頭で読みあげた。
 逃亡犯条例改正案に反対する香港の人びとには、香港社会でマイノリティとして生活している人、とりわけ東南アジアからの移住者も含まれている。香港市民とともに、民主的な社会のために声をあげている彼・彼女たちの行動に対して、特にインターネット上で憎悪と偏見を煽るメッセージがまき散らされている。香港の移住者に対するヘイトスピーチは今回新たに出てきた問題ではない。2018年8月に行われたCERDの中国・香港の審査においても、CERDは香港政府に対して移住者に対するヘイトスピーチ(ネットの内外)に厳しく対処するよう勧告を行った。今回、抗議運動が活発になるなか、ネット上でのそうしたヘイト発言が拡大していることについて、香港ジャスティス・センターから種々情報がIMADRに届けられた。