差別団体による「選挙ヘイト」 ─その実態と市民の抵抗

瀧 大知
反差別相模原市民ネットワーク

はじめに
人種差別団体として有名な「在特会」の元会長である桜井誠が2016年に都知事選に出馬した。結果こそ落選であったが、11万票以上を獲得。これまで在日コリアンをはじめとしたマイノリティに対して「死ね」「殺せ」とジェノサイドを扇動してきた人物に相当数の票が入ったことは衝撃であった。この票数が意味するのは単純な「数」の問題ではない。攻撃を受けてきた人びとにとっては、自分たちの存在を社会から抹消することを望む者たちが―都民だけで―11万人以上いるという「恐怖」を意味する。
ここで問題になったのが、選挙運動を隠れ蓑にしたヘイトスピーチ及び差別の扇動だ。問題の詳細は後述するが、公職選挙法において「表現の自由」が最大限守られていることを差別主義者たちにハッキングされたのである。3年後の2019年4月に行われた統一地方選挙では、メディアにおいて「選挙ヘイト」という言葉が使われるほどに大きな話題となった。この小論では、その舞台となった川崎市と相模原市で起きたこと、そして市民による抵抗の軌跡を報告する。

選挙を利用した「ヘイトデモ」
2017年に「日本第一党」という団体が結成された。「在特会」のメンバーを中心に構成され、党首は前出の桜井誠が務める。最高顧問には元国家社会主義者同盟副代表であり現在もホロコースト否定論を主張している瀬戸弘幸が就く。目的は国政への進出であるという。これまでも極右政党が存在していなかったわけではない。だが、「ヘイトスピーチ」の代名詞のような団体が選挙へ進出してくるというのは大きなインパクトであった。同団体からは2019年の統一地方選挙に15人が全国各地で立候補。それ以外にもヘイトスピーチを行ってきた団体に所属していた人物やその関係者などが出馬していることが次々に確認されている。
そうした中、統一地方選前半戦の川崎市と相模原市は「選挙ヘイト」の主戦場となった。
まず、川崎市では瀬戸弘幸が応援する佐久間吾一が川崎市議会選挙へ出馬。瀬戸らは以前から―現在も―在日コリアンの集住地区である川崎市を執拗に狙ってデモや街宣を行っており、このときも選挙期間前から街宣やブログなどで在日コリアンへの差別を扇動していた。告示日となった3月29日には、在日コリアンの集住地区である池上町で第一声をあげた。彼らはこの街を「在日朝鮮人による不法占拠」であると主張。駆け付けた抗議者に対して暴行を働く運動員もいた。現場を撮影した動画には、様子を見に来た地元の在日コリアンの女性が「戦前の親の代から苦労してここに来てるのに。なんであんなのぼりを立てられるんですか。私、許せません。」(https://www.pscp.tv/cracjp/1YqxoromzdaJv)と泣きながら訴える姿があった。
一方の相模原市でも「日本第一党」が3人の候補者を擁立。選挙期間前から党首も現れ、ヘイトスピーチを含む差別的な街宣や講演会を行っていた。「在特会」時代からの暴力性も顕在で、偶然通りかかった女性が抗議の声を一言発しただけで「くそばばあ!」と罵られ、10人近くの男たちに囲まれるという事態も起きていた。勢いそのままに選挙期間中も差別の種が撒き散らされた。抗議に駆け付けた人びとを十数人で囲い込み、罵倒し、追い掛け回すということが毎日のように繰り返された。彼らが叫んだ「北朝鮮人を叩き出せ」「(抗議者は)日本人ではない」という台詞。暴力的な行為の背景には差別/排外主義があるのは明らかだった。
2010年代に入ってから毎週のように路上で繰り広げられてきた見慣れた光景、差別を煽り地域やコミュニティの絆を破壊しようとする「ヘイトデモ」そのものであった。

市民による抵抗

選挙でも差別はいけません。
ヘイトに手染めたおまえら負け組
No Hate! Stop HATE SPEECH! 差別や憎悪より
も友好を! YES FRIENDSHIP!
――カウンターの抗議プラカードより

今回における最大の特徴、それは差別主義者が選挙に参加したということだけではない。市民による大々的な抗議行動が行われたということも新たな変化であった。というのも、「選挙」という制度において影響を最も受けたのは抗議者(カウンター)であった。候補者は「公職選挙法」という法律=権力に守られ自由に演説をすることが出来る。対するカウンター側は、演説を妨害すれば「選挙の自由妨害罪」として逮捕される恐れがあった。そのため、普段のカウンター行動のように、拡声器を使用して演説者のヘイトスピーチを掻き消すといった行動をとることは困難であった。そうした事情もあり、過去の選挙において差別的な主張をする候補者がいても直接的な抗議行動はあまりされてこなかった。
それだからといって放置をすれば被害を受けるマイノリティだけが忍従を強いられることになる。このような状況を前に、多くの市民が抗議の声をあげる。先の池上町では、カウンター行動における中心的な存在である「C.R.A.C.」が「選挙妨害」と銘打った上で抗議行動を呼びかけた。瀬戸らから予告された練り歩き―池上町公園から何度もヘイトスピーチに苦しめられてきた桜本へ―を止めるために、そこから一歩も出さないために数十人のカウンターが集まり身体を張って「ヘイトデモ」を止めた。
相模原ではどうか。危機感を抱いた地元の市民によって2018年10月に結成された「反差別相模原市民ネットワーク」が選挙前から落選運動を開始。注意喚起のためのチラシを作り丹念に市内へポスティングをし、街宣があれば駆けつけ抗議をした。選挙期間中も「日本第一党」が街宣をしている周囲でチラシを撒き、オリジナルで作った横断幕を掲げ、党員や支援者から幾度となく侮辱的な言葉を浴びせかけられながらもカウンターの人たちと共に戦い続けた。

おわりに ─美談ではない市民の抵抗
以上のように2019年の統一地方選挙において、ヘイト団体による選挙の(悪)利用と対峙する市民の全面的な抗議行動の2点において、それまでとは位相の違う新たな展開を見せることになった。特に後者の市民による抗議というのは大きな変化である。これまで止めることが困難であった「選挙中のヘイトスピーチ」に対応する上で1つの光明であることは間違いない。選挙期間前に法務省と警視庁が出した、「選挙期間中であってもヘイトスピーチの違法性は否定されない」という旨を記した2つの通知も市民側の後押しをした。
しかし、だ。そもそもとして差別を扇動するような人物が選挙に出られること、そのものが問題ではないか。このような状況を生み出しているのは、人種差別撤廃委員会から毎回勧告されている「差別を禁止する法律がない」ということであり、抗議行動はその副産物だ。「市民による必死の抵抗」という美辞麗句、あるいは美談として語ることだけでは意味がないだろう。すでに来年の東京都知事選には「日本第一党」の党首が出馬することを表明しており、合わせて各地で街宣やデモが行われている。その後の衆院選にも多数の候補者を出すことを示唆している。それ以外の党でも続々と「レイシスト議員」が生まれている。
2020年、日本社会はオリンピックの開催都市を「選挙ヘイト」の主戦場にすることを許すのだろうか。社会全体の姿勢が問われている。

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