報告 シンポジウム「ニッポンの身体拘束─それ、恣意的拘禁ではありませんか?」

宮下 萌
IMADR特別研究員・弁護士

2019年6月4日、日本弁護士連合会(以下、「日弁連」)主催のシンポジウム「ニッポンの身体拘束─それ、恣意的拘禁ではありませんか?」に参加した。以下、3部からなるシンポジウムの概要を述べる。
第1部は、日弁連人権擁護委員会委員の戸塚悦朗弁護士が国連の恣意的拘禁に関する通報制度の概要などをお話しされた。同制度の最大の特徴は、自由権規約の第1選択議定書のような個人通報権条約の批准手続きが不要であることである。また、「国内救済を尽くしている」という申立要件もないという利点もある。基調講演として「人身の自由と恣意的拘禁に関する作業部会の活動について」を、国連恣意的拘禁に関する作業部会(Working Group on Arbitrary Detention 以下、「WGAD」。)委員であり、元部会長のホン・ソンピル氏がお話しされた。ホンさんは、WGADの性質、マンデート並びに恣意的拘禁と判断するにあたり参照される5つのカテゴリーなどについて説明した上で、WGADの役割として重要なものは多々あるが、その中でもとりわけ重要なのが「調査」であると強調された。
第2部では、それぞれの分野での専門家から日本の拘禁に関する実情について報告がなされた。まず、精神科病院における強制入院について日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員の姜文江弁護士と第二東京弁護士会所属の内田明弁護士から報告があった。精神科病院における入院の数々の問題点を指摘した上で、これまで7件についてWGADに対して個人通報を申し立て、内2件が採択されたことを報告した。次に、刑事手続における勾留について沖縄弁護士会所属の金高望弁護士と琉球大学教授の星野英一氏から報告がなされた。沖縄平和運動センターの山城博治氏の代理人を務める金高弁護士は、山城氏の長期間にわたる身体拘束の経緯と日本国内での司法判断について述べ、星野教授からは、WGADへの個人通報の経緯と、WGADが山城氏について採択したOpinion(意見)について報告された。山城氏の個人通報について、沖縄国際人権法研究会は、2017年から数回にわたってWGADへ報告書及び声明を送付し、反差別国際運動もこれらの作成に同じく携わった。また、日弁連刑事拘禁制度改革実現本部本部長代行の海渡雄一弁護士から刑事施設関係について報告があった。海渡弁護士は、日本における刑事拘禁の中で、WGADのマンデートに照らして「恣意的拘禁」に当たり得ると考えられるものについて発表された。最後に、日弁連人権擁護委員会特別委嘱委員の児玉晃一弁護士は入管収容関係について報告された。児玉弁護士は入管の収容手続及び収容の実態についてお話され、いかに日本における外国人の収容問題が酷いものであるのかについて力強くお話された。
第3部のパネルディスカッションでは、上述の姜弁護士、海渡弁護士、児玉弁護士をはじめとして山城氏、日弁連高齢者・障害者権利支援センター幹事の池原毅和弁護士、日弁連国選弁護本部委員及び埼玉弁護士会刑事弁護の充実に関する検討特別委員会委員長の長沼正敏弁護士が、ホンさんを交えて意見交換を行った。各分野で活躍される専門家が「恣意的拘禁」という一つのテーマに対してそれぞれの知見から意見交換するところを傍聴できたのは貴重な体験であった。
ホンさんには、是非日本に調査訪問に来ていただき、国連に日本における恣意的拘禁の実態を知ってもらいたいと思う。恣意的拘禁を改善するためには、NGOの働きかけも非常に重要である。私たち反差別国際運動もこの問題について引き続きコミットしていきたい。