人権保障に向けた国連とスリランカの歩み

小松泰介
IMADR事務局次長 ジュネーブ事務所

2月25日から3月22日にかけて国連人権理事会の第40会期が開催された。この会期では、2015年に人権理事会で満場一致で採択された「スリランカにおける和解、アカウンタビリティと人権の促進(A/HRC/30/1)」の実施状況をモニタリングした国連人権高等弁務官事務所(以下、OHCHR)の報告書が提出された。この決議では、戦争犯罪や人道に対する罪の疑いを含む内戦時の大規模な人権侵害および以降の人権問題の解決、いわゆる「移行期の正義」の実現のためにスリランカ政府が取り組むことを求めており、その内容は市民から強制接収した土地の返還、治安部門の改革、憲法改正をはじめ、強制失踪、加害者の調査訴追といった内戦に関するそれぞれの問題を担う機関の設置などの具体的な措置を実施することを求めている。スリランカ政府はこの決議に賛同しており、これらの措置を講ずることを自ら約束したことになる。
しかし、人権理事会40会期が開催された時点で、移行期の正義に関する機関の中で実際に設置・運営されていたのは失踪者調査委員会のみであった。大規模な人権侵害の加害者を調査訴追するための司法機関については一向に進展が見られず、決議を通して約束したにもかかわらずスリランカ政府はその必要性を否定し、外国からの判事や検事の派遣といった国際社会の支援を拒んでいる。
また、憲法改正のプロセスは昨年末に起きた「憲法上のクーデター」によって停滞を余儀なくされた。強制摂取した土地の市民への返還は比較的進んだものの、生計手段である漁場や農用地にアクセスできない土地が返還されたりするなどの問題も指摘されている。前政権の時代に恣意的拘禁や強制失踪、拷問といった人権侵害の温床となったテロリズム防止法の撤廃と、国際基準に則った代替えの法律の制定もまだ途中である。

盛り込まれなかった具体的措置
決議30/1で定められた2017年3月までのOHCHRによるモニタリングをさらに2年延長した人権理事会34会期での決議の期限が切れるのが、今年3月の人権理事会であった。政府の取り組みは前述のように不十分であることから、国内外の市民社会から人権理事会に対し、モニタリングの継続だけでなく、明確なスケジュールに基づく実施計画の作成、OHCHRスリランカ事務所の設置、国別報告者の任命、人権侵害の証拠の収集と保存を担う独立した国際機関の設置といった措置を新たに加えた、より強固な決議を求める声があがっていた。
IMADRも、ヒューマンライツ・ウォッチやアムネスティ・インターナショナルなどの国際人権NGOとともに各国政府代表部に要望書を提出した他、スリランカの市民社会の声と人権侵害の被害者家族による証言を届けるために「スリランカにおける和解、アカウンタビリティおよび人権の促進」と題したサイドイベントを共催し、国際社会に対して働きかけた。
3月21日、スリランカ政府の賛同のもと新たな決議(A/HRC/40/1)が人権理事会の満場一致で採択された。この決議によって、OHCHRによるモニタリングがさらに2年延長され、2020年の人権理事会での人権高等弁務官による書面アップデート、そして2021年の46会期で全体報告書が提出されることが決定した。市民社会が求めたその他の措置については、残念なことに「期限を定めた実施戦略を採択することを奨励する」という文言が含まれるに留まった。国際社会によるこの選択が正しかったのかどうかは、今後2年間で自ずと見えてくるだろう。