報告 国際人種差別撤廃デー記念集会

宮下 萌
IMADR特別研究員・弁護士

3月20日、国際人種差別撤廃デーを記念した院内集会「人種差別に終止符を。―国際社会からの声―」を人種差別撤廃NGOネットワークが開催した。基調講演をされた申惠丰(しん・へぼん)さん(青山学院大学教授)の「国際人権法からみた日本の人種差別の現状と法制度-人種差別撤廃条約に照らして」と題する報告の概要をここに紹介する。
まず、申さんは、人種差別撤廃条約の概説、特に同条約の第4条について話された。同条約は、国家機関が差別を行わないことはもちろん、個人や集団による人種差別も「禁止」することを締約国に義務づけている。日本は同条約第4条(a)項(人種差別の扇動を、法律で処罰すべき犯罪とする内容)及び(b)項(人種差別を扇動する組織的宣伝活動を、法律で処罰すべき犯罪とする内容)を加入時から留保したままである。同様の留保をしている国は他にもあるが、それらの国はヘイトスピーチに対して何らかの法規制をしており、野放し状態にしているわけではない。同条約に加入し、人種差別をなくす義務を国として受け入れた以上、人種差別の扇動に対して、「それも表現の自由」「いろんな意見がある」と中立を装うことは許されない。第4条の実施は義務的であり、同条はそのまま国内で適用できる自動執行的な規定ではないからこそ、実効的な対策として、民事法、行政法及び刑事法を含む包括的な立法措置が必要である。
また、各国の法整備についても言及された。同条約を受けた国内法整備として、3つのパターンがある。①社会生活上の人種差別とヘイトスピーチの双方について刑事法で規制しているフランス等の国、②社会生活上の人種差別については差別禁止法、ヘイトスピーチについては刑事法で規制しているイギリスやカナダ等の国、③社会生活上の人種差別とヘイトスピーチの双方について民事法で対処しているオーストラリア等の国である。日本は禁止条項のない理念法であるヘイトスピーチ解消法(以下、「解消法」)があるのみで、いずれのパターンにも当てはまらない。
さらに、2018年8月に行われた人種差別撤廃委員会の日本審査についても説明された。同審査による総括所見では、①解消法の適用範囲が適法居住要件をつけることで狭くなりすぎていること、②解消法制定後も、暴力的なヘイトスピーチが続いていること、③インターネットやメディアを通じたヘイトスピーチや公人によるヘイトスピーチが継続していること等が懸念事項として挙げられ、①すべての者に対するヘイトスピーチを対象に含める法改正、②包括的な人種差別禁止法の制定、③ヘイトスピーチ及び暴力の扇動の禁止並びに加害者への制裁、④インターネットとメディアを通じたヘイトスピーチへの対処、⑤私人及び公人によるヘイトクライム及びヘイトスピーチの捜査並びに適切な制裁等が勧告として示された。
申さんは、解消法の根本的な問題はヘイトスピーチが明文で「禁止」されておらず、「違法」と言える根拠がないことであるとし、日本で求められる取組みは、明文で人種差別を禁止した差別禁止法の制定、及びそれに違反した差別についての申立てを受理する国内人権機関(1)の設置であると強調された。
日本は1995年に同条約に加入しているにもかかわらず、未だに包括的な差別禁止法も国内人権機関も存在しない。申さんの言う通り、これらの措置が一刻も早くとられるべきである。そして人種差別撤廃委員会からの勧告を受け入れ、同条約をいかにして「実施」するか、どのように人種差別に終止符を打つかを真剣に考えなければならない。

(1)国際人権基準の遵守のために活動する国家機関である。国連は「パリ原則」で、独立性や権限を充足した機関の設置を奨励している。