子どもの権利委員会 ー第4回対日審査に参加して

宋恵淑
在日本朝鮮人人権協会

国連・子どもの権利委員会(以下、委員会)は2019年1月16日~17日、スイス・ジュネーブの国連人権高等弁務官事務所にて子どもの権利条約の実施状況に関する4回目の日本審査を行った。今回の審査には、「高校無償化」制度(以下、「無償化」制度)から除外された当事者である朝鮮学校の卒業生や、筆者を含む朝鮮高校に子どもを通わせる保護者たちから成る代表団が参加、委員たちに「無償化」制度からの除外によって朝鮮学校の子どもたちが尊厳を深く傷つけられている状況について情報提供を行った。審査の概要と代表団の活動、そして審査の結果としての総括所見について述べたいと思う。

理不尽な差別への抵抗と闘いの日々
2010年5月に開催された前回の対日審査では、その前月に朝鮮学校への適用が見送られたまま「無償化」制度が施行されたとあって、委員から「無償化」除外問題に関する質問が出されたが、日本政府の抗弁もあって、総括所見では同問題についての明示的な勧告は出されなかった。ただし委員会は「民族的マイノリティに属する子どもへの差別を生活のあらゆる分野で解消し、かつ、条約に基づいて提供されるすべてのサービスおよび援助に対し、このような子どもが平等にアクセスできることを確保するため、あらゆる必要な立法上その他の措置をとるよう促す」と、日本政府に注文をつけていた。
それから9年―この間、日本政府は、委員会総括所見に真摯に向き合わず、2013年2月に朝鮮学校を「無償化」制度から完全に除外。そうした国による露骨な差別が、地方自治体による朝鮮学校への補助金の削減・停止や朝鮮学校の子どもたちへのヘイトスピーチを助長、「無償化」適用を求める裁判でも敗訴判決が相次いでおり、朝鮮学校の子どもたちは深く傷つけられている。一方で、IMADRをはじめとする日本の人権NGOとの共闘によって、朝鮮学校「無償化」除外問題に対する差別是正勧告が人権関連機関から繰り返し出されるなど、国際社会からの批判の声が強まっているのも事実である。そのため今回の活動は、朝鮮学校の子どもたちの声を子どもの権利について議論する委員会にしっかりと届け、今一度日本社会で「無償化」除外問題に関する世論を喚起するものにしようと目標を掲げた。

朝鮮学校当事者による委員会への働きかけ
今回の審査に先立ち当協会では、朝鮮学校に通う子どもたちの状況につき、①「無償化」からの除外、②地方自治体による補助金停止・削減、③学校への寄付金に対する税制上の優遇措置の問題、④依然として高等教育機関へのアクセスを否定される場合があること、⑤朝鮮学校の子どもたちにたいするヘイトスピーチ・ヘイトクライムの根絶の必要性などをまとめたNGOレポートを2017年11月に提出、今年に入ってそれ以降の情報を追加で提供した。ジュネーブで行われる本審査には、日本にある10校すべての朝鮮高校の生徒たちに「無償化」除外に対する思いや委員たちに訴えたいことを語ってもらい、英語字幕を入れた動画資料を持参した。それだけでなく、朝鮮学校で楽しく学び遊ぶ子どもたちの姿や、「無償化」適用を求めて活動する朝高生たちの凛々しい姿など、子どもたちのいきいきとした表情をとらえたポストカード型のチラシや、朝鮮学校の子どもたちに対する差別状況を包括的にまとめた基礎資料など多様な資料を用意し、審査会場で委員たちに配布した。

対日審査における「無償化」問題に関する質疑応答
16日午後にはじまった審査では、スケルトン委員(南アフリカ)から、「2013年に社会権規約委員会が『高校無償化』制度を朝鮮学校に通う子どもたちにも拡大することによって教育に関する差別に対処するよう求めているが、他の人権条約委員会からの勧告に対処するため、どのような策が施されたのか」という質問がなされた。翌17日、日本政府代表は、「朝鮮学校については当時の法令によって定められた審査基準に適合すると認めるに至らなかったため、無償化支給対象の指定にならなかった。あくまで法令に沿って判断したものであって、朝鮮学校に通う生徒たちの国籍によって差別したものではない…」などと、国内の裁判でも繰り返している詭弁を弄した。
審査時間の関係上、日本政府代表に対する再質問はなされなかったが、委員会議長をはじめとする委員たちは、排外主義者らも参加するなか果敢に活動した当事者らを労いながら、代表団の追加情報提供をじっくりと聞く場を設けてくれた。委員たちは、日本政府代表の説明では「無償化」除外の真の理由について触れられていない、「無償化」問題は他の人権関連機関でも繰り返し指摘されている問題である、これは朝鮮学校の子どもたちに対する差別の問題であるとして、日本政府の「差別ではない」という回答に懸念を表していた。

総括所見をフル活用し差別の早期是正を
2月7日、対日審査の結果として公表された総括所見1で委員会は、日本政府に対し、「39.(c) 「〔高校〕授業料無償化制度」の朝鮮学校への適用を促進するために基準を見直すとともに、大学・短期大学入試へのアクセスに関して差別が行なわれないことを確保すること」を勧告した。これで、朝鮮学校に対しても「無償化」制度を差別なく適用するよう求める国連人権勧告が出されるのは、2010年・2014年・2018年の人種差別撤廃委員会、2013年の社会権規約委員会に続いて5回目となった。
今回の勧告で特筆すべきことは、これまでよりも踏み込んで、日本政府に対し、「無償化」制度を朝鮮学校に適用するための基準の見直しを勧告していることであろう。日本政府が、度重なる国連からの差別是正勧告をことごとく無視し続け、朝鮮学校を「無償化」制度から除外した「真の理由」―「拉致問題」などの、朝鮮学校の生徒には何の関係もない理不尽な政治的、外交的理由―を持ち出して朝鮮学校を除外したことには一切触れることなく、「朝鮮学校については…審査基準に適合すると認めるに至らなかったため無償化支給対象の指定にならなかった」と言い放ったことに対し、「基準」と言うのであれば、子どもの教育権の観点から、その差別的な「基準」を見直して朝鮮学校が「無償化」の対象となるようにするべきだと、委員会は促しているのである。すなわち、日本政府の朝鮮学校排除ありきの差別的なプロセス自体を見直して、朝鮮学校の子どもたちも「無償化」の対象とするべきだと勧告しているといえるだろう。
人権関連の条約委員会による「最後通告」とも言える勧告であるが、日本政府は例のごとく「国連勧告に法的拘束力はない」などと突っぱねることだろう。たしかに国連勧告に従わなかったとしても、なんらかのペナルティが科されるわけではないが、国際人権条約を批准している国がその精神を遵守することは国際法の観点からも、また「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と謳われた日本国憲法98条に照らしても当然のことである。締約国としての当然の責務を果たさず、何度も勧告をうけながら誠実に向き合おうとしない日本政府への国内外からの批判は日増しに強くなっている。今後も、朝鮮学校の子どもたちが差別や偏見にさらされることなく、日本社会でのびのびと生きられるよう、当事者らの努力によって獲得した勧告を「宝の持ち腐れ」にすることなく、運動にフル活用しながら一刻もはやい差別是正のため力を尽くしていきたい。

IMADR
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