外国ルーツの子ども学習支援教室

金朋央
NPO法人コリアNGOセンター

新宿区内で外国ルーツの子どものための学習支援教室を開いている「こどもクラブ新宿」と「チャプチョ教室」の中心的な運営者から、現状と課題についてお話を伺った。

こどもクラブ新宿
NPO法人「みんなのおうち」代表理事の小林普子さんは、外国ルーツの子どもが学校で活き活きと過ごしていくためには、日本語学習と学校の教科学習ができる場が必要と考え、2007年に新宿区との協働事業として「こどもクラブ新宿」を立ち上げた。(現在は「子ども日本語教室」という新宿区の事業で、「みんなのおうち」が教室の運営全般を担当。)週3日、新宿区立教育センターで教室を開き、10ヶ国近くのルーツの子どもが30名以上通っている。
長年、多くの外国ルーツの子どもに接してきた小林さんは、学習支援にとどまらず、高校・大学進学やその後の就職まで一人ひとりに合わせたサポートを行なっている。2017年から夕食を提供する「毎日子ども食堂」を開いているのも、そうした個別サポートの経験を通じて、教室の現役生・卒業生らが継続して集える必要性を感じたからだ。
教室の卒業生の約6割が非正規で働いている。一番の理由は、学校時代の情報不足だという。外国出身の親が日本の学校文化を理解できておらず、子どもにとって何が必要かがわからない。たとえば、夏休みの宿題など学校での提出物が内申点に大きく影響することを知らない。なのに親から「勉強をしろ」「良い高校に行け」などと言われる。自己肯定感が高まらず、余計に勉強に向かわなくなることも多い。また、通訳をさせる、親の用事を子どもに押し付けるなど、親による子どもの行動管理も問題視する。しかも、親戚など頼れる知人が日本にいないため、親との関係で何かあったときに逃げ場所が全くない。
学校では、日本語能力に見合った授業が提供されず、ひたすら黒板の板書をさせられたりする。必死に書こうとするが、結果的についていけず、教室のなかで置いてきぼりになってしまう。国の制度も、外国ルーツの子どもたちの実態に合っていない。たとえば外国人学校から日本の公立学校への転入が認められないケースがある。
子どもたちは幾重ものリスクを抱えている。外国人(外国籍)であり、日本語が十分できず、貧困世帯で、ひとり親家庭も多い。親の負の部分を背負わされているのに、よく頑張っているなとつくづく感じる、と小林さんは語る。
非常に印象的なエピソードがある。「毎日子ども食堂」に来たタイ出身の子どもたちがタイ語で話しているのを、横で見ていた日本の同級生が「ここは日本だから、日本語を話せ」と言ったそうだ。実は、その日本の子どもは、学校内に日本語教室を設置するなど多文化共生の取組みをアピールしている公立学校に通っていた。外国ルーツの子どもが周りに多くいたのに、「差別しない」という感性を養えていなかったのだ。
親も学校も行政も、子どもたちの思いや置かれている状況に対する理解が不足したまま、一律的に「多文化共生」を掲げているために、子どもたちを管理する方向にばかり進み、子ども一人ひとりに見合った対応ができていない。言語、学校生活、家族関係、生活環境、在留資格など、子どもたちが置かれている状況が複雑で、個別で対応していくしかない、と小林さんは断言する。

チャプチョ教室
「チャプチョ」は、ハングルで「雑草」。朝鮮半島にルーツを持つ子どもを対象にした学習支援教室で、韓国出身のオモニ(母)たち、元教員、研究者、NGOスタッフ、大学生らで2012年3月に始めた。毎週水曜の夕方、新宿区大久保の「文化センターアリラン」で開いている。普段は学校の教科を中心に教えるが、学期末ごとに、韓国・朝鮮に関わることを様々な講師に語ってもらう「特別授業」を行なう。2019年3月現在、小・中・高合わせて18人。東京韓国学校に在籍する子どももいる。
開設以来、教室の運営全般を担っている木川恭さんは、南葛飾高校(南葛)定時制の元教員で、人権授業で朝鮮のことを教えていた。南葛は朝鮮語が必須授業という珍しい学校だ。
チャプチョ教室の子どものほとんどが、「ニューカマー」と呼ばれる韓国出身者を親に持つ。その子どもらにとって、在日朝鮮人1世、2世が経験した被差別の経験談は「昔話」のように聞こえるようだ。「韓国人」としての自覚をちゃんと持っているか不安だ、と木川さんは語る。多くの子どもは、名前は民族名で、家族内は韓国語で話すが、在日朝鮮人や韓国の歴史についてはほとんど知識がない。特別授業で在日朝鮮人の差別をとりあげた時、「差別されるなら、韓国名をやめるかもしれない」と言う子どももいた。それが、日本語の授業で夜間中学に通うオモニたちが書いた作文を読みながら、昔と今がつながっていて今の在日朝鮮人の状況があると話してみると、「こういうことを考えないといけないな」と感想を言った。
チャプチョ教室に通っている子どもはほぼ日本生まれだが、韓国出身の親のもと韓国語会話ができる子どもが多い一方、学ぶ機会がなく韓国語会話ができない子どももいる。また、学校で嫌な思いをした経験について質問すると、「ない」と答える。しかしよくよく聞くと、周りの友人が「だから韓国はこうだ」といった言葉を聞いて嫌な気持ちになったなど、まったくないわけではない。
木川さんからすると、アイデンティティの面で、韓国学校に通っている子どもと、日本学校に通っている子どもの間に本質的な違いはなく、韓国と日本に関することもあまり学んでいない点も同様だという。
昔も、南葛の朝鮮語授業には生徒から反発が多かったそうだ。なぜなら日本の子どもが朝鮮への差別意識を抱いているから。それを内にため込むのではなく、表に出してもらう。そこからは教師の勝負所で、両者が今後やり直せるようにすることが教育の役割だ。
チャプチョ教室で目指すのは、コリアルーツの子どもがちゃんと生きていけるために“韓国・朝鮮を学ぶ場”をつくることだ。その価値は、昔も今も変わらない、と木川さんは語った。

最大の課題は、外国ルーツの子どもの実態に即した社会・制度づくりが非常に遅れていること、言い換えれば親や学校、行政側の都合が優先され、権利主体である子どもの思いや意見がないがしろにされていることだ。子どもたちに関わっていくと、学習支援だけでは絶対に留まらない。貴重な“ミクロ”の実践が各地で展開されているが、社会全体に還元されず、問題の原因となる “マクロ”な構造が改革されない。その繋ぎ役が強く求められている。