CERDから見た沖縄 在沖米軍基地の存在

親川裕子
沖縄国際人権法研究会

2018年8月、人種差別撤廃委員会(以下、CERD)で4回目の日本政府報告書審査が行われ、総括所見には従来以上に沖縄に踏み込んだ勧告が出された。沖縄側からは90年代後半から継続している琉球弧の先住民族会(以下、AIPR)と、2016年に発足した沖縄国際人権法研究会によるNGOレポートが提出された。本稿では今回の勧告が出されるまでのCERDでの審議を振り返り、女性に対する暴力について言及しつつ今後の活用について考えたい。

先住民族としての権利、在沖米軍基地の存在への言及
2001年の日本の1回目の審査には、沖縄のNGOとしてAIPRがレポートを提出し、メンバーが審査を傍聴、委員に対するロビーイングを行った。結果、総括所見では沖縄の住民が「特定の民族的集団として認められることを求めている」ことと、「現在の島の状況が沖縄の住民に対する差別的行為につながっていると主張している」ことが認められた。
2010年の2回目の審査でもAIPRはNGOレポートを作成し、審査にメンバーを派遣し、ブリーフィングやロビーイングを行った。その結果、総括所見では前回の「特定の民族的集団」を補完するようにディエン報告(2006年)〔1〕をも引用し、沖縄の歴史、文化、言語の独自性を確認するとともに、「島の状況」について軍事基地の過重な負担が経済、社会、文化的な権利享受の妨げになっていることを懸念すると説明し、差別の監視と沖縄の代表との協議を勧めた。
2014年の3回目の審査では、事前の質問テーマにおいても沖縄における言語の保護や教育への取り組みについて問われ、審議においては先住民族として認めるべきではないかということと、米軍から派生する女性に対する暴力について言及された。しかし政府は、沖縄に居住する人びとは日本国民であり、暴力については辺野古移設に取り組んでいる、とはぐらかした。総括所見では、前回勧告が十分に履行されていないことに懸念が示され、繰り返し沖縄の代表との協議を強化すること、「特定の民族的集団」を「先住民族」として認めること、琉球の言語による教育の促進、教科書に琉球の歴史、文化を含めることなど、踏み込んだ勧告がなされた。この回では沖縄からのNGOレポートはもちろんのこと、県選出の糸数慶子参議院議員が審議に参加した。
そして今回は、他の人権条約委員会も含め、これまで日本政府に対し示された勧告が真摯に履行されていないこと、琉球・沖縄の人々が先住民族と認められていないことへの懸念が述べられた。今回の勧告で特に注目したいのが“the presence of a military base of the United States of America on the island of Okinawa.”、在沖米軍基地と明確に示し、その存在に懸念を表明したことである。2010年の勧告では“military bases on Okinawa”、在沖軍事基地とされていたもので、米国の責任を明確化するうえで画期的といえよう。

地位協定、国内法二重のハードル
加えて、米軍基地の存在による沖縄の女性に対する暴力の報告と、民間人の居住地域における軍用機事故に関連し、琉球・沖縄の人びとに対して適切な安全と保護を確保するよう勧告した。さらに、加害者の適切な訴追、有罪判決がなされていない現状にも言及している。
日米地位協定は運用改善がされたとはいえ、米軍関係者の犯罪については依然として司法的保障が十分ではない。例えば米兵や米軍属が公務中に起こした犯罪については、第一次裁判権は米側にある。酒に酔った米兵が住居や敷地に侵入する事件も後を絶たたず、直接的な暴力を振るわれずとも地元住民の精神的な衝撃は大きい。2018年9月に読谷村でおきた米兵による不法侵入では、在宅していた少女が「殺されるかと思った」と証言しているように、身の危険を感じるほどの恐怖に苛まれている。最近では、銃を持つ脱走兵が住宅地を徘徊していたことも報道されている。過重な米軍基地から派生する事件事故が起こるたび、米軍人、軍属に特権的な日米安保、日米地位協定の差別的構造を目の当たりにさせられる。2016年に起きた女性暴行殺害事件では、一般市民となった元米兵による犯行であったことから、米軍から派生する事件の複雑さ、深刻さが浮き彫りになった。
2017年の刑法改正によって強姦の定義が変わり、被害者の性別が撤廃され、非親告罪となった一方で、暴行・脅迫要件、時効期限は撤廃されなかった。性暴力被害の実態が語っているように、反抗を著しく困難ならしめる暴行や脅迫が無くとも、加害者の舌打ち一つで殺意を感じ、被害者は抵抗できなくなってしまう。性暴力被害を受けて告発するまでに十分な時間が必要であるにもかかわらず、7年(強制わいせつ罪)、10年(強姦罪)の時効では加害者を十分に処罰することはできない。米軍から派生する暴力、特に性暴力においては、日米地位協定と国内法の限界という二重の壁が立ちはだかっている。
また、国連女性の地位向上部(DAW)は人口20万人あたり1ヶ所の強姦救援センターの設置を推奨している。現在、国は各都道府県に少なくとも1ヶ所の強姦救援センターを位置づけ、沖縄県にも存在するが、国連基準には達しておらず、島嶼県であることを鑑みても1ヶ所では十分ではない。これはCERDの人種差別のジェンダー的側面に関する一般的勧告25にも抵触していると考えられる。

国際人権基準の必要性
大鷹正人国連担当大使は審査冒頭の発言の中で、「先住民族」勧告撤回の意見書が県内市議会から出ていることを受けて、沖縄における問題は人種差別の対象には該当しないとし、米軍事故が起きるのは市街地にあるからで、危険性除去のために「機能の一部を辺野古に移設させる」取り組みが進められていると語っている。IMADRを中心とするERDネットがまとめた勧告解説書によると、委員から「日本政府は基地を軽減する予定はあるのか?」と問われた際に日本政府は「辺野古移設が唯一の解決策」と回答したという。
「先住民族」勧告撤回の意見書には注意を傾けながら、2013年に沖縄県議会議長をはじめ、県内全市町村長および議長が署名押印したオスプレイの配備撤回と普天間基地の閉鎖・撤去、県内移設断念を求める建白書は一顧だにせぬ日本政府の態度は噴飯ものだ。また、普天間-辺野古間は直線距離で40キロに満たない。軍用機は墜落事故からも明らかなように市街地、陸地のみならず、沿岸、海上も含め沖縄全上空を飛行している。狭隘な島の中ではどこに移設しようとも、負担軽減はおろか危険性は一切除去されない。
沖縄に対して「人種差別」にあたらない、「同じ国民だ」というなら、なぜ埋め立て承認にかかる県の取り消しや撤回に対し、「法治国家」と法を濫用し阻止するのか。辺野古新基地建設に反対の知事が当選したにも拘らず辺野古の海に土砂投入を強行する状況をみるにつけ、沖縄県出身者は「国民」ではないのだと痛感するし、ゆえに、国際人権を活用する意義はそこにある。米軍基地、新基地建設から見えてくる政府の沖縄に対する権力の濫用を国際人権の基準から考えれば、人種差別撤廃条約第5条第1項a、bに違反しており、CERDの先住民に関する一般的勧告23、並びに先住民族の権利宣言における「自由で事前の、十分な情報を与えられた上での合意(Free, Prior and Informed Consent)」を求めるFPIC原則にも反する。国内法で救済されず、司法判断に希望を見出すことも難しい現在の状況は、むしろ、国内法(制度)によって差別が強化されているともいえる。政府による法の恣意的な運用や国連人権機関に対する不誠実な態度が改善されるまで、私たちも国際人権基準を手放すことはできない。

〔1〕 国連人種差別に関する特別報告者(当時)ドゥドゥ・ディエン氏の日本公式訪問(2005年)の報告書

IMADR
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