同性婚に関する国民投票 ー台湾からの報告ー

金昌浩
弁護士・前台湾民主基金会民主人権実践フェロー

台湾の国民投票制度の概要
2018年11月24日に、台湾で統一地方選が行われた。今回の選挙では、10個の国民投票が合わせて実施されたことが注目された。台湾では、2003年に国民投票法が制定されたが、2017年に改正され、国民投票の発議、実施、成立要件が緩和された。国民投票実施後、賛成票が反対票を上回り、且つ有効投票数の4分の1が賛成することで国民投票は成立し、行政府は投票結果の公告日から3ヶ月以内に関連法案を立法院に提出しなければならない。議題案は、例えば「台湾は独立するべきか」など憲法の改正を要する事項以外は広く認められ、今回の国民投票では、後述するLGBTに関する問題の他、「福島県など5県からの日本産食品の禁輸を続ける」(賛成多数で成立)、「2020年東京五輪に『中華台北』ではなく『台湾』名義で参加申請する」(否決)などが議題となった。

LGBTに関する国民投票の経緯及びその結果
台湾では2017年5月24日に、大法官(憲法裁判所に相当)が、同性婚を認めていない民法は婚姻の自由を規定する憲法に違反すると判断し、判決日から2年以内に同性婚を認める内容の民法改正、または新法を制定することを命じた。この判決を受け、LGBT反対派は、現行民法の規定を死守すべく以下の国民投票案を発議した。
①あなたは、民法の婚姻規定が「男女カップル」に限定されるべき、という考えに同意しますか?
②あなたは、民法に定められた婚姻規定以外の別の形式で、同性カップルが永続的な共同生活を送る権利を認めることに同意しますか?
③あなたは、義務教育(小中学校)の段階で、教育部および各学校が子どもたちに性別平等教育法に基づいたLGBT教育を実施すべきでない、という考えに同意しますか?
反対派の動きに対抗して、同性婚推進派も以下のような国民投票案を発議した。
①わたしは、民法婚姻章によって同性二人が婚姻関係を築くことを支持します。
②わたしは、法律に明記されているように、義務教育の各段階において、感情や多様性、LGBTに関する課程を盛り込んだ性別平等教育を実施し、子どもたちの性別平等意識向上を図ることを支持します。
上記5つの国民投票案は投票が実施されたが、5件の投票案のすべてで反対派の得票が容認派を上回った。
この国民投票の結果によっても2017年5月の大法官の憲法解釈は覆すことができず、台湾で2019年5月までに同性婚が実現することに変わりはないが、婚姻に関する民法規定の改正が困難となり、かつ、今後義務教育課程でLGBTに関する教育が縮小すると思われる点は、LGBTの権利運動に取り組む者には大きな打撃となった。

筆者の感想
筆者は昨年台湾で生活していたが、賛成・反対派が街頭で署名を集める光景が随所に見られ、国民投票に関する公開の討論会等も頻繁に開催されるなど、台湾では日本に比べると社会問題に接する機会が多いと感じた。また、同性婚反対派も、特別法を制定した上での同性婚については容認せざるを得ないという立場で活動しており、日本よりは同性婚の議論状況が進んでいると感じた。また、国民投票の結果から、東アジアで最もLGBTへの理解が進んでいると言われる台湾においても、中高年を中心にLGBTに対する抵抗感が強いことを再認識した。同時に、マイノリティの人権問題を国民投票という多数決の論理で決定することの危うさも感じさせられた。