外国人と共に40年─ヨコハマ信愛塾

大石文雄
信愛塾 事務局長

信愛塾は1978年に横浜で在日韓国朝鮮人の子ども会として誕生しました(設立40年)。信愛塾がある地域は、中華街や伊勢佐木町、それに日本三大寄せ場の一つである寿町も近く、在日韓国朝鮮人をはじめ多くの外国人が暮らしてきた所です。近年、外国人が急増してくる中で、近隣の学校では外国につながる児童・生徒が60%にもなるところも出てきています。中区は9人に1人が、南区は20人に1人が外国籍で、街を歩いていると外国語が日常的に飛び込んでくるという地域です。
在日韓国朝鮮人の子どもたちが通って来ていた70年代80年代と大きく異なり、現在は中国やフィリピンなどアジアの近隣諸国・地域からやってきた子どもたちが急増しています。日本で生まれ育った子もいますが、多くは学年の途中から親の仕事の都合で呼び寄せられて来た子どもたちです。子どもたちは言葉の壁にぶつかり、授業も理解できず、教室で孤立していきます。子どもたちの背景には貧困や複雑な家庭環境など様々な困難が見え隠れします。そのような子どもたちが多く信愛塾にやってくるのです。
子どもたちにとって信愛塾は安全で安心して過ごせる「居場所」です。母語も使え、自分を隠すことなくありのままの自分を出せます。母語が気安く使えるのは信愛塾で育った先輩、高校生・大学生たちの存在もあります。通訳やボランティアとして活躍している姿が、子どもたちにはロールモデルとして映っているのです。言葉が少しずつ理解できるようになってくると教科学習にも興味が涌き、やがて高校や大学受験へと繋がっていきます。このようにして自己肯定感を取り戻していった子どもたちは社会を担う生活者として活躍していくのです。
信愛塾のいま一つの主要な取り組みは外国人を対象にした伴走型の教育生活相談です。年間800件を超す相談件数からもわかるように、外国人相談はこのところ増加の一途をたどっています。相談内容もDV、離婚、進路・進学、生活困窮、医療など深刻なものが多く、しかもそれに在留資格や言語の問題が絡んでくるため、大変複雑化してきており専門性も必要とされます。入国管理局や児童相談所、教育や福祉などの行政機関、弁護士、行政書士、学校、保育所などとの連携も欠かせません。相談活動時間も不規則で、早朝や夜間であったり、役所や学校の時間外や休暇期間中であったりもします。
また信愛塾が担ってきた取り組みの一つに、「共に生きる」社会を作るための活動もあります。外国人との共生社会を実現していくには「差別」をなくしていくことなしには成り立ちません。教員採用試験に受かっても国籍の違いにより「教諭」になれず「常勤講師」としての任用であったり、横浜市のように公務員にはなれても任用に制限が設けられたり(全国では受験すらできない自治体が7割弱もある)しています。このような制度的な差別はもはや許されません(2018年人種差別撤廃委員会から撤廃を求める勧告が出される)。さらに「いじめ」や偏見・無理解をなくしていくための取り組みも求められています。特に近年各地で起こっているヘイト行為に対しても関係する諸団体と連携を取りながら運動を続けています。信愛塾では共生社会を実現していくための市民講座や人権研修への講師派遣、研究会なども続け、広く地域社会に発信を続けています。

信愛塾のこのような「現場」での実践活動は、一見華やかに見える国際都市ヨコハマのいま一つ別の側面を物語っているのかもしれません。信愛塾の活動はグローバル時代の中で、人が国境を越えて出合い、交流し、苦闘し、それでも共に生きようという極めて実践的な取り組みなのです。